間話5 ボクはモンスターだから(スラリン視点)
ボクは生まれながらにスライム、モンスターだった。戦うことが当たり前で、他人を傷つける生き方しか知らなかった。だけど、ボクはそんな生き方はしたくなかった。…怖かったから。ボクが誰にも必要とされない、いなくなっても構わない存在だと認めることが。誰かを攻撃することで、自分が最低なモンスターになってしまうことが…。
だけど、誰もボクのことを分かってくれなかった。別のスライムたちからも、人間たちからも。ボクの声に耳を傾けてくれる相手はいなかった。
ボクは生命力を回復させることができた。でも、心までは治らなかった。どんどん心が
その日も何もないはずだった。他のスライムたちに攻撃されることに耐え続けるはずだった。きっと、それはボクの意地だったんだ。モンスターは悪、そんな構図に死ぬまで抗ってみせるっていう。でも、心はもう限界だった。知らず知らずのうちにボクは自然回復のスキルを発動させないようにしていた。徐々に減っていく生命力にも何も感じなくなっていた。
「もう大丈夫だからな」
…ボクは死にたいと思ったときに初めて人から守ってもらえた。だけど、それが嬉しいと感じるようになるまではボクの心は壊れすぎていた。
「グァッ!」
その叫び声にボクはようやく動けるようになった。ボクは自分の意思でスライムたちを攻撃した。それだけであっさりと絶命した彼らにボクはすごく怖くなった。命を奪ったことが、じゃない。ボクを命がけで守ってくれた彼が死んじゃうのが。
それから彼、イツキはボクの話をちゃんと聞いてくれた。ボクはそんな優しいイツキが大好きになった。イツキと一緒にずっといたい。ボクにそんな心がまだ残ってることが意外だった。一番最初に無くなりそうなのに…。
無理を言ってなんとかイツキにテイムしてもらったボクは日に日に大きくなっていくイツキが好きという気持ちに戸惑っていた。それに、イツキの彼女たちが羨ましかった。イツキはちゃんとボクのことも気にかけてくれてたのに、もっと多くの愛情が欲しかった。
…そっか。ボク、女の子だったのか。
それに気付いたからといって何か変わるということはなかった。ボクはモンスター。人とは違う。イツキに言えば叶えてくれるかもしれない。でも、そんなことはできなかった。こんなちっぽけな願いを叶えてもらうには、イツキの払わなきゃいけない代償が大きすぎるから。
…だから、強くなろう。イツキの障害を打ち破れるほど鋭い矛に、どんな攻撃からもイツキを守れるような硬い盾に。そして、いつか人化ができるようになったら、好きですって言うんだ!
たとえ何年かかっても、ボクは絶対に諦めない!…って思ってたはずなのに。イツキのおかげですぐに人化することができちゃった!?
「えへへ〜、イツキだ〜。こうして話すのは初めてだよね〜」
ボクは真っ先にイツキの元に向かった。ほんの少し見上げるだけでよくなった彼の顔に胸のドキドキが止まらないよ〜。
「す、スラリンだよね?」
「そうだよ〜」
人化したのは初めてだったのに、イツキはちゃんとボクだと分かってくれた。…ボクのことも見てくれてたんだ。
「ボク、イツキに言いたいことがあったんだ」
ボクももう我慢できない。人化してまで隠しておくにはもう大きくなりすぎちゃってるから。
「な、何?」
「…ちょっとしゃがんで」
それだけ言うとイツキはボクに目線を合わせてくれた。
「ぼ、ボクも、イツキが、大好きなの!」
ボクはそう言って必死にイツキの頬に口付けをした。…押し付けただけかもしれないけど。
「…スラリン」
…あ〜!やっちゃった。イツキに無理矢理…。嫌、だったよね。もう、死んじゃいたいな…。ボクがモンスターであることには変わりないんだし…。
「えっ!?」
なのに、イツキはボクの頬にも同じようにキスしてくれた。ボクは頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなっちゃった。
「…これからも俺と一緒にいてほしい」
…こんなボクも受け入れてくれるの?もしかしたら、とは思ってたけど、ボクの夢が現実に!?
ようやく現実に戻ってきたボクは思わずイツキに抱きついた。そして大好きな彼の大きな胸に猫のように頬ずりした。ずっとずっと羨ましかった。気軽に触れ合えるみんなが。ボクは気持ちが伝わっちゃうから…。でも、人化してる間は大丈夫みたい。彼の気持ちも分からないけど、ボクたちには言葉があるから大丈夫だよね?
イツキはボクの頭も優しく撫でてくれた。気持ちがポカポカして胸の奥が満たされてるような感じがした。…これが、幸せって言うんだね。
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