第3話 初めてのテイム
俺たちはシンシアに連れられて街を出て歩いていた。その間、ほとんど会話はなかった。俺はもちろん、サクラも国王に対して強い怒りを抱いていた。
「お二人とも、あそこにいるのがスライムです。ステータスは全て一桁台で最弱の魔物と言われています」
そう言ってシンシアが指差したところを見ると青くて丸いモンスターが10体ほど一箇所に集まっていた。そこを見るとどうやら、赤いスライムを襲っているようだった。それを見て、我慢できなくなった俺は襲われているスライムを助けるために飛び出した。
「!待ってください。あの赤いのはスライムじゃ…」
シンシアが引き止めたけど、俺はもうスライムたちの側にいた。
「もう大丈夫だからな」
そう言ってプルプル震えていた赤いスライムを庇うように体を丸めた。赤いスライムは攻撃が来ないことに驚いたのか、一瞬大きく震えた。しかし、その後は動かずにじっとしていた。
青いスライムは構わずに俺にずっと攻撃を続けていた。少しずつ生命力を削られていくのを感じた。しかし、俺の方から攻撃することはなかった。俺は一般市民程度の力しかなく、いくら最弱の魔物とはいっても、このスライムを守りながら戦うのは不可能だと気付いていたからだ。そのまま10秒ほどして、俺の生命力は0になった。
「グァッ!」
スライムがぶつかってきたところにタンスの角に小指をぶつけたような痛みが走った。それが絶え間なく続き、俺の体は既にボロボロだった。俺はこのスライムを守らなければという使命感のみで耐えていたが、それも限界になりそうだった。俺の叫びでハッとしたのかサクラが駆け出してきた。シンシアも弓を的確に使いスライムを倒していった。それでもまだ7匹残っていて、そのスライムたちが一斉に襲ってきた。サクラが来るまではまだ距離があるし、シンシアは俺への誤射を恐れて攻撃することができないようだった。
「…これはもうダメかも。お前だけは守ってやるからな」
そう言って俺の下にいるスライムに強がるのが精一杯だった。衝撃を恐れて目を閉じたが、しばらくしても痛みは襲って来なかった。不思議に思って目を開けると細い触手のようなものを伸ばしたスライムがいた。赤い触手はスライムたちの色が少し変わっているところを貫いていた。そのまま青いスライムたちはバラバラになって崩れていった。後には1cmほどの小さな黒いカケラが残っていた。
「…君が助けてくれたのか?」
俺が体を上げてそう聞いたときに、赤いスライムは俺の方にも触手を伸ばしてきた。しかし、その動きはとてもゆっくりで、攻撃の意志は感じられなかった。俺が戸惑っていると、目の前で触手が止まった。
「…もしかして、これを握れってことか?」
俺がそう聞くと肯定するように赤いスライムの色の濃いところが上下に動いた。俺がその触手を握ったとき、俺の体に暖かいものが流れ込んできた。それは俺の傷を治して、生命力も全て回復していた。
「ありがとな」
俺がそう言うと、『こっちこそありがとう〜』という声が聞こえてきた。俺が驚いていると『どうしてボクを助けてくれたの?』と更に聞いてきた。
「…もしかして、君なのか?」
俺がそう聞くと『そうだよ〜』と返してきた。
「君を助けた理由か…。困ってそうな人がいたから助けただけで、特に理由もないし、普通のことだぞ?」
『ボクが魔物なのに?』
「けど、困ってたんだろ?…いや、困ってはいないのか。君は強いみたいだからな。…余計なお世話だったか?」
『ううん。すっごく困ってたよ。ありがとう。…ボクは痛いのが嫌いなんだ。自分が痛いのも、相手を痛くさせるのも…。おかしいのかなぁ』
赤いスライムは悩んでいるようだった。自分が襲われてもじっと耐えてるなんて、一体どれだけ大変なことなんだろう。
「…それが普通なんじゃないか?痛みを痛みだと思えないやつはすぐに死ぬよ」
俺は昔の光景がフラッシュバックしていた。もう止めてと言っても蹴られたり殴られたりし続けた。いつ終わるか分からない地獄のような体験だった。
『…不思議だな。本当は攻撃するのが怖かったはずなのに、ボクを守ろうとしてくれた君がいなくなる方がよっぽど怖かった。…そうだ。名前を教えて?』
「俺は逸樹だ。上原逸樹。君は?」
『ボクには名前なんてないよ?イツキの好きなように呼んで?』
「…じゃあ、スラリンでいいか?」
『スラリン。…うん。ボクの名前はスラリンだ。…ねぇ、イツキ。ボクも一緒にいてもいいかな。今度はボクがイツキを助ける番だ』
「でも、俺たちはこれから先戦い続けなくちゃならないよ。そんなところにスラリンを連れて行くわけには…」
『ボクはイツキと一緒がいいの!初めてボクを助けてくれて、名前まで付けてくれた。…そんな優しい人が無茶をしようとしている。それの力になりたい、って思っちゃダメなの?』
その言葉に俺は答えることができなかった。スラリンは今までずっと耐え続けてきたんだ。…俺は力がなかったから仕方なくだけど、スラリンは反撃することもできたんだ。それなのにその力を使わなかった。…そんな優しい魔物を連れて行ってもいいものか…。
『…イツキはボクと一緒じゃイヤ?』
「そんなわけないだろ!…一緒に行けたら嬉しいよ。だけど、俺と一緒に来てもスラリンはきっと辛い思いをすることになるよ。…今までよりももっと」
『…確かにそうかもね。人間も敵だし、魔物も敵。攻撃しなくちゃいけない。…でもね、イツキと別れる方がイヤなんだよ。…敵には攻撃する。だから、ボクも連れてって』
「…分かったよ」
スラリンの意志を感じ取り、俺はそう答えるしかなかった。俺もスラリンと一緒にいたいと思っていたしな。
「なぁ、シンシア。スキルを使うにはどうすればいいんだ?」
俺はすぐ近くで待っていたシンシアに聞いた。
「スキル名を言えばいいですよ。…もうお話は終わったんですか?」
「ああ。ありがとな、静かにしていてくれて」
サクラとシンシアは俺がスラリンに助けられたときから近くにいたが、空気を読んで待っていてくれたみたいだ。俺は早速テイムすることにした。幸いスラリンはスライムだし、テイムできるはずだ。
「テイミング」
そう唱えた瞬間体の底から力が抜ける感覚があった。そして、俺の手の平からスラリンに向かって小さな無数の光が飛んで行った。これでテイムが完了だと思った瞬間に頭の中に機械のような合成した声が聞こえてきた。
『テイム失敗しました。これより、絆テイムを開始します。』
その瞬間黄色っぽかった光がピンク色になった。それと同時に俺の頭の中にスラリンのステータスが入ってきた。
【スラリン(イツキのテイムモンスター) 種族:ブラッディースライム
LV:1(next:20000)
友情→大
生命力 55/90
魔力 70/100
筋力 85
防御力 100
魔法力 75
精神力 100
速力 70
総合ランク C
スキル
・攻撃耐性→全ての攻撃で受けるダメージが半分になる。
・自然回復→自分、もしくは自分が触れているものの体力を微量回復する。回復量は消費魔力によって変化し、最大で自分の生命力の一割/秒。
・液体操作→周囲にある液体を操ることができる。
・溶解液→全てのものを溶かすことができる液体を作ることができる。
・分裂→自分の分身を作ることができる。分身は数によってステータスが変化し、一定のダメージを受けるか術者が死ぬと消える。
称号
・意思ある魔物→自分の体の一部が触れている相手に自分の意思を伝えることが可能】
俺よりも圧倒的に強いステータスがそこに表示されていた。俺がショックを受けていると、更に頭の中で声がした。
『友情が大になったことでステータスの半分が還元されます。また、条件を満たしたことにより、新たな称号を獲得しました。また、ステータスが上昇したことにより、新たな魔物がテイム可能となりました。また、ブラッディースライムを絆テイムしたことで2倍の30000経験値を獲得しました。割り振りますか?』
その質問に俺はスラリンに20000与えて、自分で5000使うことにして、残りの5000はそのままにすることにした。すると、スラリンのステータスは全て2倍になっていて、生命力と魔力が全て回復していた。そして、総合ランクはBとなっていた。必要な経験値も2倍になっていた。
それよりも大きな変化があったのは自分のステータスだ。
【イツキ=ウエハラ 性別:男 年齢:17
LV:2(next:10000)
割り振り可能経験値:5070
職業→テイマー(◼︎)
生命力 135→40(+95) 135
魔力 140→40(+100) 140
筋力 125→40(+85)
防御力 150→40(+110)
魔法力 115→40(+75)
精神力 150→40(+110)
速力 115→40(+75)
総合ランク C
スキル
・テイミング→魔物を従えることができる。テイム可能モンスター:Eランクまでの全ての魔物
・召喚→自分がテイムした魔物を呼び出すことができる。
・魔剣化→自分がテイムした魔物を武器として使うことができる。それを装備している間はその魔物のステータスが加算され、外すと元の魔物に戻る。その後10時間のクールタイムが必要。
隠しスキル
・絆テイム→自分がテイム不可能な魔物でも友情が中以上ならテイムすることができる。
称号
・異世界人→全ての言語を理解可能
・魔物の主→自分がテイムした魔物に変化することができる。その間はその魔物が持つスキルを使用することが可能。また、魔物に変化している間はその種類の魔物と意思疎通が可能
・魔物に愛されしもの→取得経験値が減らなくなり、魔物の友情によってステータスが加算される。割合は中→10% 大→50% 超→100%】
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