第2話 追放
「…では、みなさんの総合ランクを教えてください」
シンシアは少し言いずらそうに言った。それに答えるように「SSSだ!」と一番最初に言ったのは、
「私はSか。…ねぇ、いっちゃんは?」
蒼井さんは俺に聞いてきた。隠した方がいいのかと一瞬思ったが、死なないためにはウソはつかない方がいいかと考え、正直に話すことにした。
「…Gだ」
俺がそう言った瞬間、場の空気が固まったような気がした。そのまま数秒が過ぎた。
「…スキルがその分強い、とかですか?」
「…スライムをテイムできるみたいだ」
「…スライムだけ、ですか?」
「ああ」
俺が答えたら、シンシアは頭を抱えてしまった。
「…では、あなたの生活は城で保証するので、ここで待っていていただけますか?」
シンシアは親切にそう聞いてきたが、俺が答える前にシンシアの後ろから声がかかった。
「その必要はない。…どうやら、勇者だけでなくゴミまで混ざっていたようだ。即刻その者を摘み出せ!」
シンシアの後ろを見ると、赤い羽織を
「お……国王様!」
シンシアが真っ先に叫んだ。そこには、どちらかといえば非難の色が濃かった。次に声を上げたのは佐藤だった。その声色はシンシアと真逆で喜色満面だった。
「あっはっは。ザマァー。今まで桜にチョッカイかけたからだよ!せいぜい無様に泣き叫べ!」
俺はその言葉を無視して立ち去ろうとクラスメイトに背を向けた。そのときにシンシアから呼び止められた。
「待ってください!せめてものお詫びとして、何か贈り物をさせてください!」
それは本心のようだった。だから、俺も少し考えて本心で答えることにした。
「…それでは、蒼井桜さんのことを頼みます。彼女が少しでも幸せになれるようにしてください」
「…分かりました。必ず」
他人のことを頼んだ俺が不思議だったのか、シンシアは驚いた顔をしたが、俺の目を見てはっきりと頷いた。
「待ってよ!私も一緒に行くわ!…私の幸せはいっちゃんといることなんだから!」
蒼井さんはみんなの目の前でそう大声で叫んだ。ここまで言われて気づかないほど俺は鈍感ではないけど、今の俺の立場で蒼井さんを受け入れる訳にはいかなかった。断ろうと口を開きかけたときに、先に言葉を発したのは国王だった。
「認められる訳ないじゃろ!」
「…なんや、あんさんは勝手に誘拐しておいて自由に行動もさせないつもりなんか?」
そう言ったのは学校で蒼井さんと一番仲のいい女子だった。
「なんだ、お主は」
不機嫌そうに国王は言った。何かのスキルを使ったのか威圧感を放っていた。それに少しも
「わいは総合ランクSSSの
「…分かった。桜と言ったか?お主が抜けることを許可しよう」
「!ありがとうございます。…みーちゃんもありがと」
蒼井さんはそう笑顔で言った。…こうなったら、受け入れるしかないな…。
「頑張るんやで〜」
そう言ったときに、俺の頭に小頭さんの声が聞こえてきた。
(さーちゃんの気持ちに気づいたやろ?…泣かせたら許さないから)
(もちろん)俺がそう返したら、(頼むで)とだけ返ってきた。それから俺の頭から何かが抜けていったような気がした。
俺たちが頭の中で話しているときに蒼井さんとシンシアも話していたようだ。
「王女さんは私を止めないの?」
「止めませんよ。今さっきあなたの幸せを助けると誓ったばかりですし、それ以前にもともと止めるつもりもありませんからね。…では、あなたは何を望みますか?」
そう聞いたシンシアに対して、蒼井さんが答えようと口を開きかけたところで、蒼井さんの体がビクッと震えた。
「じゃあ、シンシアさんに付いてきてほしいな」
蒼井さんがそう言ったときにシンシアは目を見開いて固まった。蒼井さんはシンシアが答えるまでしばらく待っていた。
「…どうして、私なんですか?」
シンシアが最初に発したのはそんな疑問だった。蒼井さんは「信頼できるから」とだけ答えた。
「…国王様。私は王女を辞任して王族の身分を捨てたいと思います」
シンシアは国王に向かってはっきりと言った。
「…そうだな。この機会にゴミは全て捨てるか」
国王はそう答えた。そこにはシンシアへの情を感じなかった。
「これより、ゴミ二名とそれに付き従う勇者一名を追放とする。二度と王宮内に入ることは許さぬ!即刻出ていけ!」
それを聞いたシンシアは俺たちに付いてくるように言って、部屋から出ていった。俺が出ていくときに佐藤からの嫉妬混じりの強い視線を感じたが、俺は何も言わずに出てきた。
「なんでアイツばっかりいい思いするんだよ。…こうなったら奪ってやる。アイツの全てを。…そうだよ。所詮アイツはGランクなんだ。殺して奪えばいいんだ。きひ、きひひ」
佐藤がそう言っても、それを聞く者はいなかった。
王宮を出た俺たちは、シンシアからこの世界について聞くことにした。
「この世界には魔物と呼ばれるモンスターが生息しています。彼らも人と同じようにステータスやスキルを持っていて、G〜SSSまでのランク分けをされています。彼らの多くは人里離れたところに住んでいます。その理由として現在最も有力視されているのが、彼らの生命エネルギーである闇の魔力が多いからだとされています。そして、闇魔力を取り込み過ぎたら、凶悪な性格になると言われています。なので、彼らは周囲の生物を問答無用で襲ってきます。ひとまずは彼らに対抗するために強くなることをおすすめします」
シンシアは丁寧に説明してくれた。その中でも俺は気になったことがあったので、聞くことにした。
「魔力って種類があるのか?」
「はい。魔力にも火、水、風、光、闇、無の6つの種類があるとされています。これらの属性を組み合わせることによって、様々な属性に派生させることができます。その中でも特に重要なのが無属性です。これは一人一人違っていて、これにより魔法の才能が変わると言っても過言ではありません。私たちは無属性と表現していますが、細かく分けると数百を超えると言われています。例えば、物を燃えやすくする性質の無属性を使える者は、火の一つ上である炎属性となります」
シンシアの説明はとても分かり易いものだった。
「それじゃあ、どうして魔物は人里にはいないの?」
そう聞いたのは蒼井さんだった。それにもシンシアは丁寧に答えてくれた。
「人里は魔力の属性がほぼ均等になっています。そのため、魔物が好む闇魔力が少なくなるからです。人は一つの属性では生きていけません。そのため、魔物が住みにくいところに人里ができたと言った方が正しいかもしれません。しかし、魔物はどこにでもいます。ランクが低い魔物は街の近くでも見かけます。彼らは闇の魔力が少しでもあれば産まれてきます。街中には結界が張ってありま…」
そこまで言って、シンシアは何かに気付いたように言葉を止めた。そして、顔を青くして、「…どうしましょう。結界の維持は私がやっていましたが…」と言った。「追い出したのはあっちだし、考えがあるんじゃないか?」と俺が言ってもシンシアの顔は晴れなかった。しかし、彼女は俺たちに説明することを続けてくれた。
「まぁ、下手に扱わなければ1年は持つはずです。…他に質問はありますか?」
「…シンシアは強いんだな。…じゃあ、強くなるってどういうことなんだ?」
俺はもう一つ気になったことを聞いた。
「魔物を倒すと魔石というものが手に入ります。それを特定の数使うと、どれか一つのステータスを1〜3の中のランダムに上げることができます。魔石はランクが高い魔物ほど多く持っています。また、一流の人になると、魔物を倒すことで、ステータスが二倍になることがあります。これを覚醒と呼んでいて、10年に1度くらいしか起こらず、原因も不明です。なので、最初は魔物を倒して魔石を集めることを目標にしましょう」
シンシアはそう言った。覚醒…それってLVが上がったってことか?
俺がそう考えていると蒼井さんもシンシアに質問していた。
「この世界って一夫多妻制なの?」
「はい、その通りです。この世界には人…ヒューマン族以外にもたくさんの生き物がいます。その中でも獣人族が一夫多妻制で、昔ヒューマン族の女性を
「そっか。ならシンシアさんが一緒でもいいね」
「…よろしいんですか?」
「もちろん!」
「…ありがとうございます」
俺の知らないところで女性たちが結束していた。…って、どういうことだ!
「これから一緒にいっちゃんを落としていこう!」
「おー!」
…これは俺のせいなのか?蒼井さんの気持ちに気づくのが遅かったから?…それにしても適応するの早すぎだろ…。
「…と言いたいところですが、すみません。私はできません。これを…」
そう言って、シンシアは首元に巻いていた布を取った。そこには彼女の細い首には似つかわしくないゴツゴツとした首輪のようなものが付いていた。
「…これは隷属の首輪と言います。国王に付けられたこれがある限り私は自由になれません」
シンシアは暗い表情でそう言った。そこには諦めの色があった。
「…許せない。私が国王を殺す」
「待って!蒼井さん」
俺も憤りを感じたが、それより早く蒼井さんが行動を起こそうとした。
「…どうして止めるの?」
「今はまだダメだ。俺たちには力がない。このまま行っても俺たちの立場が弱くなるだけだ。それに、チャンスがなくなる。小頭さんにも迷惑がかかるぞ」
俺は自分の無力さに拳を強く握りながら蒼井さんを止めた。
「まずは俺たちが強くならないと」
「…じゃあ、私のことを桜って呼んでくれたらいいよ」
「分かった。一緒に強くなろうな、サクラ」
「うん!」
サクラは嬉しそうに頷いた。
「…どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「だって放っておけないだろ。仲間なんだから」
「…ありがとうございます」
俺がシンシアの頭を撫でながら言うと、シンシアは少し頬を染めてお礼を言った。そのとき、サクラも頭を俺の方へ突き出してきた。
「…ハーレムはいいけど、差別はよくないと思うな」
「分かったよ。…これでいいか?」
サクラが何を望んでいるのか分かった俺はサクラの頭も同じように撫でた。
「うん!」
そう答えたサクラの頬もほんのりと染まっていて、可愛いなと思った。今までは幼馴染としか思っていなかったサクラを異性として見たのはこれが初めてだった。しかし、この時の俺はその気持ちに気付いていなかった。
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