第7話 ギルドマスター
「お話し中、失礼するよ」
俺たちが話しているとそんな声がかかった。見ると深い帽子を被った優しそうな青年が二階から降りてくるところだった。
「!ギルマス!」
真っ先に気づいたアヤが彼に向かって叫んだ。
「ギルマス?…もしかして、ギルドマスター?」
俺がそう聞くとアヤは頷いた。
「私はこの帝都ロッドのギルドマスター、バーメランです。…そちらのお名前を伺っても?」
「俺はイツキだ。こっちは俺の彼女のサクラとシンシア。アヤ…は知ってるか。俺たちは冒険者登録をしてもらいに来たんだ」
俺はバーメランにそう答えた。サクラとシンシアは頭を下げるだけだったが、何も言われなかった。それどころか彼は混乱しているみたいだった。「シンシア…。まさかカワラギ王国の王女様?いや、そんなわけないよな?でも、本物の可能性も…」という呟きが聞こえてきた。
「…まぁいいか。…それではイツキさん、テストをさせてください。私と一対一で戦っていただき、勝ったら一つだけ望みを叶えましょう。しかし、負けたらアヤさんに近づくことを禁止します」
ギルマスは俺にそう言った。
「…わかった。いいだろう」
俺はそう答えた。
「!ダメです。ギルマスは元Sランクの冒険者でこのギルド内最強です。…私はイツキさんと離れたくないです…」
アヤは涙目で訴えてきた。俺はアヤの頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。アヤを悲しませることは絶対にしないから。…それに、今は立ち向かわないといけないんだ。だって、アヤの気持ちを無視しようとしてるんだもん。彼女すら守れない彼氏なんて嫌だろ?だから、信じて待っててくれ」
俺がそう言うとアヤは静かに頷いた。そして、俺から離れていった。その
「「⁉︎」」
サクラとシンシアが驚いて口をパクパクさせていた。…どうしたんだろう?
「…ちゃんと勝ってくださいね?もう私の唇は傷物になってしまったんですからね」
アヤが顔を赤くして自分の唇に触れた。
「…はい」
俺はそう答えるのが精一杯だった。アヤの言葉がどういう意味か分からないわけもなく、俺の顔も赤くなるのを感じた。
それから場所を変えて俺とギルマスは向かい合っていた。
「それではイツキさん、早速始めさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「…その前に一ついいですか」
そう言って俺は周りを見渡した。そのまま普段は出さないような大声をだした。
「どうして見せ物のようになってるんですか!?」
俺たちの周りには100人ほどの冒険者が集まっていた。中には賭けをしている人もいる。
「私はイツキに金貨1枚!」
「おっ?いいね、お嬢さん。じゃあ、俺はバーメランに金貨1枚だ」
…ってシンシアまで!何やってるの!
ちなみにこの世界のお金の価値は、
銅貨1枚→1円
銀貨1枚→100円
金貨1枚→10000円
白金貨1枚→100万円
黒金貨1枚→1億円
となっている。…これは負けるわけにはいかないな。
「どうやらお仲間も楽しんでいるようだが?」
ギルマスは意地の悪い笑みを浮かべて俺に言ってきた。
「…みたいですね。それじゃあ、さっさとやりましょうか」
「そうこなくっちゃ。…じゃあ、いくぞ!」
そう言ってギルマスは俺の方へ走ってきた。そのまま右ストレートを放ってきた。俺は落ち着いて少しだけ左にズレた。そのときに自分の右手を相手の右手に合わせて横にズラすことも忘れなかった。ギルマスは勢いに逆らわず、そのまま俺の右を通過していった。
「やるね?…それじゃあ、もっと激しくいくよ!」
ギルマスがそう言うと再び俺の方へ向かってきた。その速さはさっきまでの倍近く、技を繋げるのも上手かった。左ストレートを避けたと思ったら右回し蹴りがきて、どうにか止めても正面に右手が迫っていた。俺は相手の蹴りの勢いを活かして大きく左に跳んだ。そのまま体制を整える前に踵落としがきたから地面を転がることでかわした。そのまま蹴りが飛んできたから腕の力だけで飛び跳ねてそのまま空中で蹴りを放った。相手が足を上げた絶妙なタイミングだったから一撃を浴びせることができた。しかし、相手の蹴りを避けることはできず、大きく吹き飛ばされた。腕を割り込ませることはできたが、生命力0で受けたスライムの攻撃と同じくらいの衝撃があった。…まだ生命力は残ってるのに。このまま追撃されるとマズイと思っていたが、追撃がくることはなかった。そして、帽子が落ちて長い耳が
「ふふっ!まさかここまでするとはな!…ここからは本気でいかせてもらう!」
いつの間にかギルマスは弓を持っていた。それを大きく引き絞って放ってきた。矢は飛んでこなかったが空気だけでも体制が崩されてしまった。俺が戸惑っているうちにギルマスは矢をつがえた。そのまま引き絞って放った。それは俺の頭を真っ直ぐ狙っていた。俺は慌てて右に避けたが矢羽が掠ってしまった。それだけで頬が裂け、血が流れた。
「くっ!」
…どうすればいい?俺に勝てるのか?スラリンを呼べば勝てるかもしれない。でも、そんなんで本当に勝ったと言えるのか?…彼女を守れたって言えるのか?
俺は少し落ち着いて様子を伺った。だから気づけたのかもしれない。
「シンシア!しっかりしてよ!」
そう叫ぶサクラの声が。その瞬間俺の中にあった躊躇いがなくなった。そして、帝都に入った時から目立たないようにカードにしていた相棒の名前を叫んだ。
「スラリン!…殺さないようにね」
投げたカードはブラッディースライムになった。そしてそのまま触手を伸ばし、ギルマスの四肢を拘束した。
「えっ?」
ギルマスはまだ何が起きたのか分からないみたいだった。俺は気が気じゃなくてシンシアたちの元に駆けつけた。
〜三人称視点〜
少し時間が戻ってイツキとバーメランが戦い始めたころ、サクラたちは周りの冒険者と同じように驚いていた。始まってからバーメランはともかく、イツキの姿まで目で追うことができないからだ。
「…いっちゃんって強いんだね」
「そうですね。まさかここまでとは…」
「わぁ〜。イツキさんってかっこいいですね!」
驚くサクラとシンシアの横でアヤは目を輝かせていた。
「もう、可愛すぎる!」
そう言ってサクラはアヤに頬ずりをした。
「アハハ。くすぐったいですよ〜」
アヤも嫌がる素振りを見せず、逆に楽しんでいるみたいだった。
「2人とも、はしゃぎすぎですよ」
騒いでいる2人をシンシアがやんわり嗜めた。
「「ごめんなさい〜」」
2人はしょんぼりとして謝った。
「もう、仕方ないですね」
シンシアは2人の頭を優しく撫でた。それだけで落ち込んでいた2人も笑顔になった。それにつられてシンシアも笑顔になり、3人のやりとりに周りの冒険者もほんわかとしていた。しかし、それも突然終わりを告げた。それも、試験の終了前に…。
最初は違和感だった。さっきまで動き回っていたバーメランが立ち止まった。サクラたちはどうなったのかと注意深く観察した。すると、耐えられなくなったのか帽子が飛ばされた。そして、緑色の少し長めの髪が目に映った。
「…ウソ。エルフ?」
ふとそんな呟きを聞いたサクラはシンシアの方を向いた。すると、シンシアは顔を真っ青にしてぶつぶつ呟いていた。
「…シンシア?どうかしたの?」
「…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
シンシアには声が届かないみたいだった。顔色もどんどん悪くなっていき、ついに倒れてしまった。
「シンシア!しっかりしてよ!」
サクラは叫んだが、シンシアは反応しなかった。
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