第18話 (家をもらって)初(めての)夜
俺はこの世界に呼び出された経緯について説明した。それを知らなかった人が少し驚いていたけど、俺は俺だと受け入れてくれた。
そして、夜になった。アリスに今夜のことを確認しようと声をかけようかと思っていたけど、避けられてしまった。彼女はそのまま自室に入ってしまったから、今日は別々かな?そう思った俺は自分用の部屋に向かった。
〜アリス視点〜
…私は何をしたかったんでしょうか?じゃんけんという遊びでたまたま勝ってしまいました。そのときは嬉しかったはずなのに、今は景品が足枷になってしまっています。
「…はぁ〜。どうしよう」
私が選べる選択肢は彼の部屋に行くか行かないかの2択です。それでも、どちらも選びたくありません。
…行く方は、重い女だと思われてしまうかもしれません。イツキさんも彼女でもない女が来たらイヤでしょう。最悪追い返されるかもしれません。
…でも、行かない方は私が彼を嫌ってると思われるかもしれません。それだけは絶対にイヤです。
コンコン
「きゃっ!…〜ッ!ど、どうぞ」
私の中での答えが決まってるはずなのに、
「…急にごめんね。寝るところだった?」
「スラリンさん?大丈夫、だけど…」
中に入ってきたのは意外な人物でした。メイベルか、もしかしたらイツキさんかもしれないと思っていたのに、私と同じようにイツキさんの従魔で、私と違ってイツキさんの恋人でもあります。
「よかった。ボク、アリスにちょっとお願いがあって…」
スラリンさんはそう
…きっとイツキさんもその方が嬉しいでしょう。だから、スラリンさんの提案を受け入れるべきなんです。それでも、他の女の子たちと仲良くしているイツキさんを私だけが離れたところから眺めている、そんな未来を想像してしまい胸が張り裂けそうなほど苦しくなってしまいました。
「…アリスがイツキの部屋で寝る、って話なんだけど…」
…やっぱりそのことなんだよね。受け入れるようにしなくちゃ。分かった。…分かった。たったそれだけ、それだけなら言える。
「行ってあげてほしいんだ!」
「やだ!」
…あれ?今彼女は何て言った?私はどう答えた?「代わってくれ」って言われて、「分かった」って答えたはずなのに。
「…ボクにはお願いすることしかできない。強制するつもりも方法もないけど、今日だけはイツキの側にいてあげてほしい」
…違う。私はイヤなんて思ってない。
「きっとイツキは悲しんでると思うから。…今日の話を聞いて、きっと家族に会いたいって感じてると思うから」
「…それなら、スラリンさんが行けばいいでしょ?」
違う。そんなことを言いたいんじゃない。
「…それはズルになるから。ボクはじゃんけんで負けたからね。それに、きっとイツキはボクたち彼女には言ってくれないと思うから。イツキは自分で抱え込んじゃう人だから。…でも、仲間なら話しやすいかもしれないし」
違う!私もイツキさんのことが……。
「…なんて、こんなことをスライムのボクがドラゴンのアリスに頼むなんておかしいよね。…少し考えてくれるだけでいいから、お願いするね」
「違う!」
私が黙っていたから気まずくなったのか、そのまま立ち去ろうとしたスラリンさんに私は大声で叫んでしまいました。
「私は!君が羨ましいの!…私は自分の気持ちを素直に伝えられないから。私も、イツキさんが好き。…でも、嫌われるのが怖い」
…私はまた失敗するところでした。自分で勝手に想像して、それに怯えるなんて、この前メイベルと仲直りした後に治そうって思ってたはずなのに…。
「…そっか。なら、明日からは彼女仲間かな?頑張って!」
そう言ってスラリンさんは私の腕を引っ張りました。強引なそのやり方のおかげで躊躇っていた私の体はイツキさんの部屋に向かって動き始めました。
〜イツキ視点〜
広い部屋で一人きりになった俺は時間を持て余していた。地球ではよく妹の
「…まだ一週間くらいしか経ってないんだよな」
地球ではひたすら虐めに耐えてきた。それがサクラに…蒼井さんに向かなければいいと思っていた。それで家族には心配かけちゃったけど、みんな触れないようにしてくれた。麻依だけは学校に行かないでほしいって言ってたっけ?確かに学校は苦痛だったけど、せめて高校は卒業しないといけないとっていう観念に囚われていたんだよな。でも、この異世界では何の役にも立ってないな。
そんな俺がこの世界に来て、最初は追い出されたんだっけ?それなのにサクラが俺に付いてきてくれて、今では彼女が6人もいるんだもんな。人生何があるのかわからないよ。
コンコン
俺が今までのことを振り返っていると、ドアが控えめにノックされた。
「?空いてるよ」
「…イツキ」
俺が促すと枕を持ったネロが入ってきた。少し緊張したような彼女は言葉を探してるみたいだった。俺はそのまま彼女の言葉を待った。すると、覚悟を決めたのか、一度深呼吸をして真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。
「魔王さま、いい人。殺さないで、ほしい、です」
「…そっか。なるべく頑張ってみるよ。けど、サクラには選択肢を残しておいてあげたいんだ。俺を信じて付いてきてくれた彼女に後悔してほしくないから」
「…しかた、ないね。…イツキも、帰りたいと、思う?」
…俺は、どうしたいんだろう?家族には会いたい。けど、それ以外に元の世界に対する未練はない。
「俺は…分からない。家族に会いたい、けど、この世界のみんなとも離れたくない。もちろん、ネロともね」
俺は正直に話すことにした。取り繕って
「…そう、なんだ。…会いたいって、思える家族、羨ましい。…私には、いなかった、から」
そうだった。彼女は家族から捨てられたんだった。ネクロマンサーだった、それだけのことで。
「…私、ね。魔王軍に、いたの。さっきは怖くて、言えなかった、けど、そこで魔王さま、会った。イリス、友達になった。…楽しかった。…でも、他の人、怖かった。人、殺さない私、いらないって」
ネロはつっかえながら、それでも言葉を止めることはなかった。俺も水を差さずに彼女の言葉を待った。…俺は彼女がどんな風に生きてきたんだとしても、受け入れるから。
「そして、私は、魔王さまと、イリスのおかげで、逃げてきた」
「…なら、もし会ったら感謝しないとね」
俺がそう言うと、ネロは驚いたようにこっちを見てきた。それから、嬉しそうに微笑んで「ありがと」と言った。俺はその精一杯の笑顔に見惚れていた。
「…今日、一緒に寝ても、いい?」
俺がボーッと眺めていると、ネロがそんなことを言ってきた。頬が少し赤く色づいていて、恥ずかしがっているのが分かった。思わず頷きそうになった俺は、慌てて約束を思い直した。
「…ごめん。今日は先約があるんだ。来てくれるか分からないけど、今日だけは待っててほしい」
「…うん。じゃあ、私は戻る、から。今日は、嬉しかった」
ネロは少し残念そうにしながらも素直に立ち上がった。俺はそういえば、まだ彼女にしてあげてないことがあったと思い出した。俺も同じように立ち上がって、「おやすみ」と言って額に口付けした。
「〜ッ!」
すると彼女は真っ赤になって逃げるように部屋を立ち去った。
それと入れ替わるように新たな来客がやってきた。
「…イツキさん」
「アリス?来てくれたの?」
それは、可愛らしい寝巻きを纏ったアリスだった。彼女はネコの着ぐるみを着ていて、ギャップがあって可愛い。
「…うん。…でも、その前にお願いがあるの」
「?どうしたの?」
「…おの、ね。…私って、ドラゴンで、イツキさんは人間、でしょ?価値観が違うことくらい、分かってる」
俺は急な話についていけなかったけど、彼女自身、パニックになっているみたいだった。
「ちょっと落ち着いて。深呼吸。ちゃんと聞くから」
「…うん。スー、ハー。スー、ハー。…よし!…つまり、ね。私もイツキさんが好きです!」
彼女はそれだけ言って部屋を飛び出していった。後には眠れなくなった俺だけが取り残された。
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