第16話 女の戦い〜部屋決め編〜

〜イツキ視点〜

 「…あの、あり、がと」

 スラリンをなんとか降ろした俺にそう声をかけてきたのはメイベルと似ている女の子だった。

 「もうお話は終わったの?」

 「…うん」

 俺がそう聞くと彼女は頷いた。

 「そっか。それじゃあアリスはこれからどうするの?…って、聞くまでもないかな?」

 「私…メイベルと一緒にいたい!」

 さっきまで遠慮がちに話していた彼女が初めてはっきりとした意志を見せてくれた。

 「もちろんそのつもりだよ」

 「…いいの?」

 「もちろん。……っと、そうだ!これからのことを決めないと!」

 俺はこれからどうするのか全く決めていないことに気がついた。王城を飛び出してからは野宿だったし、帝都に来てからはギルドに泊めてもらった。……流石にこのままじゃダメだな。

 「…もうそろそろ宿でも取らないといけないかな?」

 そう漏らした俺に食いついてきたのは彼女たちだった。

 「じゃあ、私はいっちゃんと同じ部屋がいい!幼馴染みなんだもん!」

 「いえ、イツキと同室になるのは私が適任でしょう!彼を呼び出してしまったのは私ですから、そのお詫びに!」

 「私もイツキと一緒にいたい!…だって、いつもお留守番なんだもん」

 「あの!私もイツキと一緒の部屋がいいです。今日会ったばかりなので、もっと色々知りたいです」

 「ボクはイツキの従魔だもん!いつも一緒でしょ?」

 「わ、私は、メイベルと一緒なら、それで。…でも、イツキさんにテイムされちゃってるから、マスターが望むなら…」

 そう言ってみんなが期待に満ちた表情で俺を見てきた。…あれ?これ、詰んでね?誰を選んでも、バッドエンドしか見えない…。

 「え、えーっと。…みんなで相談して決めてほしいな、なんて」

 もちろん、俺が一人部屋になればいいのは分かっている。それでも、せっかく彼女たち(+α)が望んでくれてるんだから、叶えてあげたい。

 「…じゃあ、じゃんけんにしよっ!」

 「じゃんけん、ですか?」

 サクラがそう提案してルールを説明していた。それほど複雑じゃないからみんなもすぐに理解したのか、早速始めるみたいだった。

 「…じゃあ、いくよ。最初はグー!じゃんけんポイ!」

 そう言ってみんな一斉に思い思いの手を出していった。…あれ?みんなチョキ?あっ、1人だけパーがいた。

 「そ、そんな〜」

 それは言い出しっぺのサクラだった。サクラはしょんぼりと肩を落としていた。

 「…あ〜。じゃ、じゃあ、二回目をやるよ」

 今度はシンシアが仕切っていた。ここでもほとんどの人が揃っていた。唯一違ったのはアリスだ。…それも、みんながグーの中、一人だけパーで。

 「…わ、私の、勝ち、なの?」

 アリスは信じられないという風に自分の手をじっと見つめていた。

 「おめでとう、アリス!…次は負けないからね!」

 最初に声をかけたのはメイベルだった。

 「メイベル!…そうだ、メイベルも一緒に!」

 アリスは慌てたようにそう言ったけど、メイベルは首を横に振った。

 「それはダメだよ。それじゃあ私だけズルになっちゃう。同じ人を好きになった彼女同士として、対等でいたいから」

 「…それじゃあ、私はメイベルと一緒に寝れないの?」

 アリスは悲しそうにそう言った。その姿がとても勝者に見えなかった俺は助け船を出すことにした。

 「…俺は一人部屋でも全然いいぞ」

 「誰もイツキさんとが嫌だなんて言ってないじゃない」

 アリスは恥ずかしそうにそう言った。それでも、俺のことを受け入れてくれてるんだと思うと嬉しかった。

 「…そっか。それじゃあ、今日はよろしくな」

 「よ、よろしく!?私に変なことしたら、消し炭にするから!」

 アリスは顔を真っ赤にして怒っていた。どうして怒ったのか分からない俺は素直に聞くことにした。

 「すまん、何か怒らせるようなことを言っちゃったか?今度から気をつけたいから、よければ教えてくれないか?」

 「怒ってないわよ、ばか!……それじゃあ、私だけ意識してるみたいじゃない」

 最後の方は小声で話していて聞き取れなかった。それでも、怒ってないってことにしたいみたいだったから、それ以上は何も聞かないことにした。

 こうして俺たちの初めての依頼は大成功で幕を閉じた。アキラさんを無事に助け出すことができたし、俺自身のステータスも大分上がっていた。それになにより、メイベルと出会えて、スラリンやアリスとも普通に笑い合うことができた。その成果を胸にギルドまで戻った。

 ギルドのドアを開けるとそれに気付いたホワイト・ウイングのみんなが深々と俺たちに頭を下げてきた。

 「ありがとう!君たちのおかげで助かった。パーティーを代表して感謝させてくれ」

 「…はい。お互い無事でよかったです」

 俺が何か言うのを待ってるような雰囲気があったから、俺が返事をした。…別に俺がリーダーってわけじゃないんだけどな。

 「…君たちは器が大きいんだね。俺たちは何を求められても、それに応えなきゃいけないのに」

 「誰も怪我してない。それでいいじゃないですか。俺はそれ以上の成果なんて望みませんよ」

 「…そうか。あなたたちに最大限の感謝を。もし困ったことがあったら、いつでも相談してくれ。…例えば、君の仲間がバカにされた、とかな」

 アキラさんは最後はおどけたようにそう言って笑っていた。…やっぱり、みんなが亜人を嫌っているわけじゃないんだな。

 「イツキ!こっちに来てください!今回の報酬があります!」

 ちょうど話の区切りがついたタイミングでいつの間にかカウンターに立っていたアヤから声をかけられた。俺がそのままアヤの元に移動すると、握り拳くらいの大きさの袋を渡された。

 「これが今回の報酬です」

 中には白っぽい貨幣が50枚くらい入っていた。…ゴブリンを倒しただけで、銀貨50枚ももらえるのか……。

 「50枚です!…流石はイツキですね!」

 ……えっ?ただのゴブリンだよ?それなのに、5000万円!?俺が予想外の大金に驚いていると、ギルマスまで降りてきた。

 「ちょうどよかった。イツキさん、ぜひ家をもらってくれないか?…もちろんお代はいらないよ」

 家か〜。……って、家!?なんで!?

 「…どうして、家なんて」

 「あ〜。……優秀な人材を手放さないためだよ、うん」

 そう答えたギルマスの目線はキョロキョロと動いていた。…これは、何かを隠してるな?

 「…でも、白金貨50枚に家なんて、もらいすぎですよ」

 「いやいや!それは正当な報酬だよ。ホワイト・ウイングはBランクパーティーで、それの救出には最低でもAランクはほしいところだからね。そんなパーティーに頼めばこれくらいは普通だよ」

 「び、Bランクパーティー!?」

 ホワイト・ウイングは俺が思っているよりもすごいパーティーみたいだ。

 「あっ、そうそう。イツキさんの冒険者ランクはBに昇格しました」

 「…えっ?」

 どうやら、魔物討伐よりも後始末の方が大変みたいだった。

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