第11話 ギルマスの真意

 俺が治療室に入るとさっきと同じ場所にギルマスが座っていた。

 「やぁ、イツキさん。急に呼び出してしまってすみませんね。まずはお掛けください」

 「それじゃあ、遠慮なく」

 俺が椅子に腰掛けたのを見計らってギルマスが話しかけてきた。

 「今お呼びしたのはアヤさんについてです。独り言だと思っていただいて構いません。……アヤさんには家族がいません。ご両親も、そして、弟さんも」

 「……えっ?」

 それは予想もしていない言葉だった。アヤは確かに弟のために頑張ってるって言ってたはずなのに…。

 「彼女は弟がいると思い込んでいます。それが彼女自身の心を守ることに繋がっているのです。私たちギルドの職員はそれを知っていて何もできませんでした。でも、イツキさん、あなたならアヤさんをもっと幸せにしてあげられるかもしれません。……こんなことを頼むのは筋違いだと思いますが、どうぞアヤさんを、仲間をよろしくお願いします」

 そう言ってギルマスは深々と頭を下げた。それを聞いてほんの少し不愉快になった俺は「…ふざけないでください」と言葉が漏れた。

 「もちろんアヤを幸せにするつもりです。それでも、このギルドの人たちがアヤを大切に思っていたことは分かります。それなのに、このギルドで一番偉いあなたがそれを否定しないでください!」

 「…そうか。それは申し訳ない。…じゃあ、これからは共にアヤを支えていこう、でいいのかな?」

 「はい!それがいいです」

 俺の意見をしっかりと聞き入れてくれて堅苦しくなりすぎない。そんなギルマスはこの世界に召喚されて初めて出会った尊敬できる大人だった。

 「…それはそうと、どうして私の提案を受けたんですか?イツキさんがアヤさんを大切に思っているのは間違いないと思うんですが…」

 「えっ?だって、俺がアヤに近づいちゃいけないだけだろ。最悪負けても逆は禁止されてないからな」

 「…逆、とは?」

 「アヤが俺に近づくことはいいんだろ?」

 自分でも言い訳じみてるとは思っているけどそれが俺の考えだった。それを聞いたギルマスは鳩が豆鉄砲を食ったようにポカンとしていたけど「…ククッ」と笑った。

 「いやぁ、失敬。まさかあんな短時間でそこまで考えていたとは。強いだけでなく頭もいいみたいですね。あなたならいずれ大きなことを成し遂げるような気がします」

 そう言ってギルマスは手を差し出してきた。俺がその手を握るとギルマスは笑いながら上下に動かした。


〜アヤ視点〜

 ギルマスに呼ばれたイツキが部屋を出ていってしばらくしてから私は彼に会いに行く理由を探しました。初めて無条件で受け入れてくれそうな人に出会えたんです。会いたいと思うのが普通だと思います!

 そうしていると私は弟のことを思い出しました。彼はきっと弟も一緒に支えてくれると思うけど、しっかり聞いていませんでした。それを聞くためにも彼のいる部屋に向かいました。

 部屋の前に着くとイツキとギルマスの話し声が聞こえてきました。私が意を決して入ろうとすると「彼女は弟がいると思い込んでいます」と話すギルマスの声が聞こえてきました。そんなはずないと必死に否定しようとしてもその声は、想像はどんどんまとわりついてきました。

 その場に崩れ落ちそうになった私を支えてくれたのはイツキの「…ふざけないでください」という声でした。その後に続いた彼の言葉で私はようやく現実と向き合うことができました。彼以外にも私を支えてくれてた人が大勢いました。

 ……弟は、ハルは、もうこの世にいません。

 それから私は音を立てないようにその場で泣いてしまいました。昨日のシンシアさんを見ていたからか、それほど取り乱さずに済んだんだと思います。それからすぐにドアが開いて彼が出てきました。私は我慢できずに大好きな彼に抱きつきました。彼は「うぉっ!」と驚いていたけど、すぐに優しく抱きしめ返してくれました。ポカポカと暖かい温もりを感じた私はゆっくりと闇の中に意識が引きずりこまれました。


〜イツキ視点〜

 ギルマスとの話し合いを終えた俺は彼女の1人であるアヤを抱きしめていた。…うん。自分でも状況がよく分からん!張本人のアヤは俺の腕の中で寝てるし、誰か、俺がどうすればいいのか教えて!

 それでもシンシアの看病とかで疲れてるだろうアヤを起こすことはできなかった。仕方なくお姫様抱っこでゆっくり持ち上げて元の部屋に戻った。

 部屋の前まできて俺のこの世界に召喚されて最大のピンチを迎えた。……ドアが開けられない!

 アヤを起こしちゃうからノックはダメだ。室内に呼びかけることも避けたい。体当たりなどで知らせることもできるが、振動で起きるかもしれない。

 俺は中に入ることを諦めてアヤの寝顔を眺めることにした。身長のせいもあるのか、幼い雰囲気の彼女の寝顔はやっぱり幼くて、そして愛おしかった。

 「……ハル。守ってあげられなくてごめんなさい」

 彼女の小さな口からそんな言葉が漏れた。それと一緒に流れた一筋の涙を俺は拭いてあげることができなかった。物理的にも、そしておそらく弟のことを思って涙を流したアヤの気持ちを考えても拭うのは冒涜ぼうとくだと感じた。…やっぱり、さっきの会話を聞いてたんだな。

 俺はやるせない気持ちをいるのか分からない神にぶつけた。こんなに幼い子供から全てを奪った世界を……。

 せめて俺の周りの人には幸せになってほしい。それが俺の望みであり、この世界で強くなる理由だ。みんなを守るのに力がいるならなってやるよ、最強にも!テイマーのスキルで仲間を増やして、仲良くなって自分のステータスを上げる。

 「あれ?いっちゃん?…そんなところで何イチャイチャしてるの?」

 俺が強くなる決意を固めたとき、部屋の中からサクラが出てきた。そのとき目線がガッチリと腕で持ち上げてるアヤに固定された。そして拗ねたようにそう言った。

 「アヤが寝ちゃったみたいでね。どうやって中に入ろうか悩んでたんだ。ありがとね、開けてくれて」

 「あ、うん。入って入って」

 サクラは俺たちを促してきた。それに従うように中に入ってアヤをゆっくりとベッドの上に移した。それから羨ましそうに見ていたサクラとシンシアもお姫様抱っこをしてあげた。顔がすごく近くて心臓が破裂しそうなほどドキドキした。いい匂いもしたし、触れている太ももは柔らかかった。お姫様抱っこは素晴らしいものだと思いました、まる

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