第12話 異常な魔物
その次の日、俺たちは一日休暇を取ることにした。ずっと歩きっぱなしだったし、シンシアとアヤにも心の休憩が必要だと思ったからだ。
「た、助けてくれ!」
しかし、ギルドの入り口から助けを求める声が響いてきた。慌てて俺たちが駆け寄るとぐったりとした人を二人がかりで支えている冒険者がいた。
「!ひどい怪我。すぐに治療するね」
サクラがそう言って三人の方に向けて手を
「
そう唱えるとサクラの手から出た緑色の光が三人に
「で、できた。……ど、どうだった?」
「うん、綺麗だったよ」
「そ、そういうことじゃないの!…けど、ありがと」
サクラは心配そうに聞いてきたので正直にそう答えた。それが嬉しかったのかサクラはほんのりと頬を染めてそっぽを向いた。
「…ありがとう。俺はハリスだ。…ここまでしてもらって頼むのも申し訳ないと思うけど、リーダーを助けてくれ!」
そう言ってハリスと名乗ったさっきまで傷だらけだった男性が頭を下げた。それに合わせて残りの2人も同じように頭を下げてきた。
それから詳しく話を聞くと、どうやらゴブリンの不意打ちを
〜とあるパーティー視点〜
ハリスが加入しているBランクパーティーの『ホワイト・ウイング』はサンダーバードの討伐依頼を受けていた。サンダーバードは雷を纏った人と同じくらいの大きさのBランク魔物で、特徴は早さだった。さらに、直接剣などで攻撃しようとすると雷によって痺れてしまう。
それでも
「…待て、何か嫌な気配がしないか?」
リーダーのアキラがそう言った。ただの勘、だけど、冒険者の彼らにとっては重要な素質の一つだった。
「サーチ。…何もいなそうですよ」
それを受けて索敵魔法を使ったのは
「…そう、か。じゃあ、より気を付けて進むぞ」
彼の言葉を受けてリーダーはそう進むことを決意した。ここで出来るのはそう注意することか、引き返すことだけだった。
「ギャギャ!」
それからしばらく進んだところで一匹のゴブリンが目の前に現れた。それを見た彼らは油断なくいつものように陣形を整えた。
それでゴブリンは倒される…はずだった。そもそもBランクの彼らにとってGランクのゴブリンは格下の相手だった。しかし、ゴブリンは異常な強さだった。そこでユウキも魔法の詠唱を始め、
「…撤退する。2人はハンスを頼む!」
「待ってくれ!リーダーはどうするつもりなんだ!」
「…俺がゴブリンどもを引きつける」
「それなら俺が!」
そう言ったのはケンゴだった。しかし、アキラは首を振った。
「お前はダメだ。確かに耐久力は俺よりもあるだろう。でも、速さがない。俺は自分も含めて誰も死なせるつもりはないぞ」
それに何も言えなくなったメンバーは気絶しているハンスを引き連れてギルドへの道のりを急いだ。
「ゴブリンはっけ〜ん!」
そう言ってさっきまで自分たちが戦っていた場所を目掛けて進んでいるパーティーに不安を感じながら。
〜もう一つのパーティーのリーダー視点〜
俺たちは冒険者になったばかりでもうEランクに上がったパーティー『ドラゴンキラー』だ。そのリーダーである俺の名前はクズモンだ!あっ、サインは無しな。
俺たちは今日ゴブリンの討伐依頼を受けている。それでもゴブリンどもを全然見かけなくない。きっと俺の強さにビビってるんだな!
「…あの、リーダー。アリスが警戒しています。慎重に進んだ方がいいと思いますが…」
そう声をかけてきたのはメイベルだ。こいつは一昨日からの新参者の
「だ、そうだが、どうだ?」
「はい、クズモン様。私の索敵には何の反応もありません。恐らく報酬を多くもらうためでしょう」
俺がマジシャンのビーチに聞くとそんな返事が返ってきた。
「だとよ。だいたい、こんなザコばっかりのところで強い魔物なんて出る訳ないだろ」
俺の言葉にメイベルは何も言い返してこなかった。…そうだよ、俺に従ってればいいんだよ。文句言いやがって。
俺はそのまま進んでいるとようやく二匹のゴブリンが現れた。それは別のパーティーを狙っているみたいで、まだ俺たちに気づいてないみたいだった。駆け出した俺は手に持っていた新品の鋼の剣をゴブリンに突き刺した。横取りはマナー違反だけどゴブリンに苦戦するザコがいけないんだ。
「ゴブ?」
「な!」
確かに斬りつけたはずなのにゴブリンはそのまま振り返った。見ると手に持った剣の真ん中からポッキリと折れていた。…クソッ!不良品か!
「氷よ、敵を貫け!アイスアロー!」
それからビーチの魔法が飛んできた。これで終わりだな、と思ったのに、ゴブリンには効いていなかった。
「うわぁぁ」
それどころかゴブリンが敵だと認識したのかものすごい早さで棍棒を振り下ろした。それを喰らった俺は大きく吹き飛ばされてメイベルに受け止められた。
「…大丈夫?」
そう声をかけられても返事はできなかった。明確な死の気配に俺の心は折れてしまった。地面に降ろされた俺は膝が震え、立っていることがやっとだった。
早く逃げなければ!そう考えた俺は一つの案が生まれた。俺は予備として持っていた小型の折りたたみナイフを取り出した。
「撤退するぞ!」
俺はそう言って手に持ったナイフを目の前に振り下ろした。
「な、んで」
その次の瞬間に走り出した。その後ろを付いてくるのはビーチだけだった。俺はさっきまでの震えが嘘のように全力疾走していた。メイベルを囮にした俺たちは無事に生き残ることができた。
「ドラゴンがいなくなったのは残念だけど、仕方ないか」
次の日には俺はメイベルの足を斬りつけたことを忘れて冒険者ギルドに向かった。ギルドには昨日の内にメイベルが死んだと伝えていた。自分勝手に独断専行して俺たちを巻き込んだと。何とか助けようとしたけど無理だったと。
…しかし、そこにはメイベルがいた。彼らはそれに気づかなかった。
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