第5話 告白
俺たちがロガルゴ帝国に向けて出発してから2日が過ぎた。その道中で4匹のゴブリンと遭遇した。ゴブリンはGランクの魔物で、緑色の子供のような見た目をしていて、棍棒を持っていた。俺は武器を何も持っていないから、素手で殴りかかった。すると、ゴブリンは緑色の血を撒き散らして爆散した。当然その中心にいた俺はその血を浴びてしまった。その血はまるで牛乳を拭いて3日ほど放置した雑巾のような匂いだった。
「…くっさ!」
俺が唯一の服を汚して絶望していると、スラリンがやってきて液体操作で血を取り除いてくれた。匂いが取れた俺はゴブリンと戦う方法を考えることにした。そして、俺がスラリンになって戦うことを思いついた。魔物の主の称号を使いブラッディースライムに変身した。
『…イツキはモンスターだったの?』
『違うよ。俺はテイマーだよ』
スラリンに触れなくても意思疎通ができるようになっていた。更に、知らないはずのスキルの使い方や体の動かし方などが頭に浮かんできた。
「いっちゃんがスラリンになっちゃった!どうしよう⁉︎」
サクラが俺を見て焦っているようだったから、『大丈夫だよ』と言ったが伝わらないようだった。俺はスラリンがいつもやっているみたいにサクラに向かって触手を伸ばすことにした。サクラは慣れてきたのか迷わず握ってくれた。
『俺は大丈夫だよ。流石に素手でゴブリンを倒すのはイヤだからな…』
「そうなの?…いっちゃんがそう言うなら信じるけど、一言言って欲しかったな…」
サクラは少し拗ねたような口調で言った。俺は『悪かったって』と言おうとして、いつもどうりサクラを見た。それが失敗だったと気付いた時には既に手遅れだった。すぐに目を逸らしたが、瞼の裏にしっかりと焼き付いてしまった。…ピンク色だったな。
「では、イツキは私が運びますね」
そんな声と共に俺の体がシンシアに持ち上げられた。
「あっ、ひど〜い。…私もいっちゃんを抱っこしたかったのに!」
サクラは頬を膨らませて言った。…どうやらバレなかったみたいだ。
「ふふっ。早い者勝ちですよサクラ。ぼさっとしてると置いていっちゃいますよ。……そう、置いていかれちゃうんです」
最後の呟きはすぐ近くにいた俺だけに聞こえていた。その声色には強い覚悟が宿っていたように感じた。
「…次は私の番だからね」
サクラは今回は諦めたみたいだった。そのままサクラはスラリンを抱いて歩き出した。…元来た方へ。
「早く来ないと置いていっちゃうわよ」
サクラは今さっき言われたことがよほど悔しかったのか得意顔で同じセリフを言った。そんなサクラは教室にいるよりも活き活きとしているような気がした。…向かっている方向は目的地と逆方向だけど。
「…サクラ。そっちは反対方向ですよ?」
シンシアが言いづらそうにそう言ったらサクラは無言で戻ってきた。そして俺たちの横を通り過ぎてそのまま歩いていった。そのときのサクラの顔は真っ赤になっていた。
『…俺たちも行くか』
「そうですね」
サクラの後を追いかけてロガルゴ帝国に向かうことにした。
しばらく歩いているとシンシアが俺だけに聞こえるように小声で話しかけてきた。
「…見ましたよね?どうでしたか?」
『…どういう意味なの?』
一つだけ心当たりがあったが、知らないふりをした。シンシアは笑顔だったが、普段よりも怖く感じた。
「…サクラさんの下着に決まってるじゃないですか?」
…バレてる⁉︎どうしてだ!
「…やっぱり見たんですね」
俺が言い訳を考えて黙っているとシンシアはそう言った。こうなったらウソを吐くのは逆効果だと思い、素直に謝ることにした。
『…ごめんなさい。見ました』
「…そう」
シンシアはそれだけ言って俺を上の方に持ち上げた。俺はどんな攻撃がくるのかと目を閉じて身構えていたが、一向に衝撃がくる気配がなかった。
「目を開けてください。…恥ずかしいんですよ?」
シンシアのそんな声が聞こえたから、俺は恐る恐る目を開けた。そのときに真っ先に目に映ったのはシンシアが自分のワンピースの胸元を広げている姿だった。シンシアの白い肌に水色の下着が綺麗だった。
『…って、何やってるの!』
俺は突然のことに頭が真っ白になったが、自分の置かれた状況を思い出して思わず叫んだ。
「…サクラには負けたくないから。私にできることならなんでもしてあげたいの」
シンシアは真っ直ぐ俺だけを見つめていた。…この世界の人は強いな。俺は不意にそう思った。ステータスなんていう数字に惑わされないような心の強さがあった。命が短いものだと知っているから全力を尽くす覚悟があった。…ホント、俺なんかにはもったいないほどの素敵な女性だよ。シンシアもサクラも。
『…どうして、そこまでしてくれるの?』
「私はイツキのことが好きだから!」
「あっ!また取られた!…私もいっちゃんのことが好き…」
シンシアが叫んで、それを聞いたサクラも俺に告白してきた。二人ともほんのりと頬が染まっていて、目が潤んでいた。俺は魔物の主を解除して、自分の考えを二人に伝えることにした。
「…ありがとう。二人にそう言ってもらえて嬉しいよ。…でも、ごめん。まだ二人の気持ちに応えることはできません」
俺は端的に結論だけを話した。サクラは今にも泣きそうな顔になって、シンシアは無表情になった。
「どうして!…私たちのことが嫌いなの?」
「そんなわけない!…自分に自信が持てないんだ。二人を幸せにできる自信がつくまで待っててほしい」
「…それって、私たちの告白を受け入れてくれるってことですか?」
シンシアが希望を含んだように聞いてきた。
「もちろん。受け入れたいって思ってるよ」
そう言った瞬間、二人の顔が歓喜に染まった。この笑顔をずっと守っていきたいと素直に思った。
「…それじゃあ、これからもずっと私たちと一緒にいてね?」
「…そうですよ。サクラも私もイツキさんが大好きなんです。離れちゃダメ、なんですからね?」
「分かってるよ。…まずは冒険者になって、二人を経済的に支えられるようにならないとな」
二人が俺と一緒にいたいと言ってくれたことはすごく嬉しかった。告白の返事を保留にした俺なんかと…って思う方が失礼か。せっかく好いてくれてるんだから全力で努力しなきゃな。
「…はぁ、いっちゃんは全然分かってないね」
「そうですね。私たちを舐めないでほしいよね」
サクラとシンシアはお互いに話し始めた。
「そうそう。私たちは一緒にいられればそれでいいのに」
「それなのにイツキさんは私たちの分のお金も稼ごうなんて…」
「「ねぇ〜」」
二人は息ぴったりだった。俺は謝ろうと口を開きかけたが、それより早く二人が喋った。
「…でも、そんないっちゃんだからこそ好きになったんだろうね」
「…そうですね。私たちのことを大切に思ってくれて嬉しいって思ったもん」
「…ありがとう、二人とも」
俺は喉から出かかった謝罪の言葉を感謝の言葉に変えた。そっちの方がいいと思ったからだ。それに二人は満足したような優しい笑みを浮かべた。まだまだ時間はたっぷりあるから、どんな答えを出すのか悩みまくって、考え抜いていかないとな。それが俺にできる最低限の礼儀ってやつだからな。
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