第13話 宴

 宴が決まり、あわてた小夏が館にある私の衣を全部だして並べたので、母に小言を言われて必死で謝っていた。それでも顔に映えて上品な衣を選ぼうと必死になる小夏と悩んだ末に選んだのは桜の色の衣だった。

「媛様、この色の衣、お好きですね」

 季節の違う衣とわかっていても、二人との思い出の深いものだとわかっている小夏は出した衣を片付けながら、文句を言わなかった。あれから父は何か言いたげで、でも帝の言葉が効いているのか何も言わなかった。逆に母は口を開けば隼人様に決めなさいとわかりやすかった。


「それでは行ってまいります」

 宴の日、準備が整った私が父に挨拶に行くと何も言わなかった父が声を出した。

「今日お二方にお会いして、お前が思うように決めれば良い、それだけだ」

 手のひらを返したような言葉に驚いたが父や母が望むことは言わなくてもわかっていた。

「本当に良いのですか、私が誰を選んでも」

「そうだな、頭の良いお前ならわかると思っていたがそれを選べるほど大人ではないことも理解できる」

「父上の言う大人が何かも犠牲にするということだとしたら…私は…嫌です」

「そうだろうな…お前は…私とは違う…」

「父上…?」

「好きにすれば良い」

 そう言うと屋敷の中に入ってしまった。


「媛様、外でお待ちしております。いってらっしゃいませ」

小夏と何人かの従者と入口で別れると一人で館の中に入った。秋から冬へと移ろう館の庭は、たくさんの明かりがともされ、幻想的な雰囲気に包まれていた。

「明日香媛様」

「諏訪媛様」

 成人の儀でお会いした諏訪媛様が声をかけてくれた。

「今日の宴に呼ばれたのですが今日の会はいったいどのような…」

 宴の内容は聞いていない諏訪媛様の衣は色白の媛様に映える朱色の豪華なものだ。媛様が妃候補と聞いて家人が選んだ衣装というなら納得だ。

「お二方に会いたくはないかと…父に言われて…何も考えずに来たのですがまさか帝の別邸とは…私などが呼ばれてよいのでしょうか?」

 謙遜しているが諏訪媛様のお父上は父と同じ大臣の位でお母上は皇族の血筋と聞いている。品格も振る舞いも私なんかより十分な資格を持っている。

「諏訪媛様は十分すぎるほどです」

「そんな…でも今日はお見えの方々はどのような方なのでしょう。成人の儀にいらっしゃった媛様が数人ほどいらっしゃいましたが…」

「…そうですか…」

 帝の言われた通り、目立たない形での宴といってもお二方にお会いできるとわかった時点で妃候補と気づくものも多いだろう。

「でも、お二方にちゃんとお会い出来ますね。成人の儀の時はよく見えなかったので、楽しみに来ましたの」

「…ほんとうですね。私も…」

 純粋に目を輝かす諏訪媛様と同じように、今日集められた媛様達も同じ感情だろう。

「あら、あちらにいるのは敦子様の妹君の御息女ですわ」

「えっ、敦子様の妹君の…」

 敦子様の名に驚いたがさすが諏訪媛様だけあって、そういう情報をよく知っている。御息女のお姿をもう一度見ようと振りかえると少し離れた所がにわかにざわついていて人だかりができている。

「どなたかいらっしゃったみたいですわね」

「ええ」

 


「やっと会えたな」

「抜けがけするな隼人」

 いつかよりも大人になられた貴仁様と隼人様が目の前に現れた。


 


 

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