第3話 館での再会
宴が終わり、春から夏へ季節が移りつつある中、館が一際騒がしくなった。どうやらお客様が来るらしい。母や館の者たちの慌てぶりを見る限り、位の高い方が訪れるようだ。蚊帳の外の私は、邪魔しないように自分の部屋にこもっていると、父が現れた。
「明日香、明日お客様が来る、そこで舞を披露しなさい」
習って間もない舞を見せるだけでも嫌なのに、知らない人の前でなんて、どう考えても無理な話だ。
「嫌です」
「決まったことだ」
「ちゃんと踊れません」
「それでもいいから」
母や兄とのやりとりを見れば、父が一度言い出したことを曲げないのは幼い私でもわかる。
「わかりました」
「わかればいい」
自分の意見が通って満足したのか父は部屋を出ていった。父が出ていくのと入れ替わりにお付きの小夏が真新しい衣を手に入ってきた。
「姫様、明日の衣です、袖を通してみてください、おかしなところがあれば、すぐ直します」
着ている衣の上から、袖を通させようと後ろに立った小夏に問いかける。
「ねえ、小夏、明日誰が来るか知ってる?」
「いえ、どなたかまでは、でもかなり位の高い方かと」
「そうよね、私もそう思う」
「大丈夫そうですね、丈もぴったりです」
私が聞いたことより、試着に意識がいっていたのか、掛けていた衣を脱がすとすぐさま部屋を出ていってしまった。
次の日、大広間の上座に座っていたのは、帝の妃と見たことのない女性、その横に私を桜の精に間違えた男の子二人だった。
「今日は無理を言ってすまなかった、貴仁がどうしても先生の屋敷に行くと言って聞かぬゆえ、妹と隼人とともに大臣の屋敷に参ったのじゃ」
「いいえ、こちらこそ、こんなむさ苦しい所にお出でいただき恐縮です」
挨拶が終わると、食事が始まり、それが終わると舞の時間になった。
とても上手いとは言い難い舞を踊るのに緊張しすぎて舞台の上で固まっていると、見かねたのか男の子二人が立ち上がり、私の両隣に立つと
「この踊りなら、踊れるな隼人」
「ああ、一緒に踊ろう」
そう言って、私に笑いかけ三人で舞を踊った。
「ありがとうございます」
踊り終えて礼を言うと
「俺より上手だな」
「確かに隼人より上手かった」
「貴仁よりもな」
緊張をほぐすように、この間と同じ掛け合いが始まった。
「明日香媛と言ったな、そう呼んで良いか?」
「えっ」
急に話を振られて焦っていると
「貴仁ずるいぞ、私もそう呼んで良いか?」
二人に真顔で詰め寄られてうなずくと
大人達の笑い声が聞こえた。
「良かったですね、貴仁、隼人、姫に断られなくて、明日香媛仲良くしてくださいね」
館で再会した二人は、何が何だかわからないまま、友になっていた。
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