第2話 桜の下の三人

「桜の精とは本当にいるのですか?」

初めて会ったばかりの二人に少しの揶揄と大きな好奇心で静かに問う。

「そ、それは、なあ貴仁」

「いるはずだ、父上も見たと言っていたし…」

不確かな情報と自信の無さが態度と言葉に見え隠れするのが、やっぱり可笑しくてまた笑うと、遠くから私を呼ぶ父の声が聞こえた。

「明日香」

母を伴って、私のそばに近づいた父が二人を見て慌てて頭を下げた。

「貴仁様、隼人様こちらにいらしたのですね、ご挨拶が遅れました、今日はおめでとうございます」

『先生!』

声を揃えた二人が父のそばに駆け寄るのを見ると、父の教え子なんだろう。兄様よりももっと上の人たちを教えている所しか見たことなかったからか、自分と同じぐらいの子を教えているのが不思議でならなかった。

「これは末の媛の明日香です、会うのは初めてでしたね、なにか失礼はなかったですか」

「父上、私は何もしておりません、ただ…さ」

「桜の精だと思ったのです」

口ごもった私の言葉にかぶせるように貴仁と呼ばれている子が口を開いた。

「桜の精…ですか?」

驚いた表情の父は、三人の顔をかわるがわる見ると吹き出した。

「でも先生、父と叔父上が昔この樹の下で見たと言っていました、隼人とそんな話をしていたら、樹の下にこの子が立っていて…」

「それで間違えたのですか」

「…はい」

「もし本当にいるのなら、私もお目にかかりたいですな、まあこんなにお転婆な精霊はいないと思いますが」

「父上!」

「ははは、まあそう怒るな」

私の怒りなんて気にしない父が大きく笑うと二人も同じ様に笑った。


「貴仁様、隼人様皆様が探しておいでのようですよ」

ひとしきり笑った父がそう言うと、どこから現れたのか二人のお付きの者たちが慌てた顔でやって来た。

「ばれたみたいだな」

「ああ、そうみたいだ、先生また講義でお会いできるのでしょう?」

「はい、近いうちにまた」

父が頭を下げると、二人は私の前に立ち

「明日香媛また会える日を楽しみにしています」

「その時まで忘れないでください」

双子の様に似た面立ちで笑うと片方ずつ私の手を握って、すぐさま中央へ駆け出していった。


「父上の教え子ですか?」

「ああ、帝の御子貴仁様と弟宮の御子隼人様、年はお二人ともお前と同じだ」

「そうですか、また会うのでしょうか?」

「そうなるやもしれんな」

父の意味ありげな言葉すら気にも止めず、二人がかけていった方を眺めていた。


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