たまゆらの恋
@MOYOHA
第1話 幼き日の出会い
私達の出会いは、帝の二番目の御子がお生まれになったときだった。
代々、世継ぎの教育係をしている我が家に、御子誕生の知らせと宴へ呼ばれることが決まってから、館は大騒ぎだった。最初の御子がお生まれになった時、お腹の大きかった母は、宴に出ることが出来ず悔しい思いをしたからか、今回の宴にかける心持ちが違った。新しい衣を何着も揃え、香と紅と小物を何種類も集めて、お付きの者たちと当日のいでたちの打ち合わせを何日もしていた。それに合わせて、小さい私の衣も部屋を埋め尽くし、身動きのできないことに嫌気が差した頃、父と母と兄と私は、帝の別邸、紫苑の門をくぐった。
「本日はお招きに預かり…」
「堅苦しい挨拶は抜きじゃ、今日は内々の祝い、友として呼んだゆえ、帝ではなく
優しい微笑みとともに父に近づいたその方は、紫苑帝と呼ばれる今上帝だ。
「そういうわけには…」
「では、私の言うことが聞けぬのか?」
悪戯な笑みを保ちながら、さらに圧をかけると諦めたのか父も微笑んだ
「春仁様、本日は真におめでとうございます」
父が頭を下げると、母と兄が続いて頭を下げた。どうしたらいいか悩んでいると目の前にいたきれいな女の人と目があった。
「このかわいい姫は、もしや貴仁と同じ年に生まれた姫君か?」
「はい、
父が私に目配せしながら、もう一度頭を下げたのを見て、ようやく私も真似をして、頭を床に近づけた。
「先ほどまで
「隼人様とご一緒ですか?」
「ああ、同い年で仲が良いのだが、すぐに何処かへ消えてしまう」
帝が苦笑いしながら、庭に目をやった。
「ゆっくりしてくれ、高光」
帝と妃の前から下がると、父と母は大きく息を吐いた。
「久光、明日香、少し二人でいてくれるか、挨拶をしてくる」
大きな池の前に敷かれた赤い敷物に座らせられると両親は足早に人混みに消えていった。
知り合いを見つけた兄様がいなくなると、座っているのにも飽きた私は、池の奥に見える大きな桜の木に吸い寄せられるように歩きだしていた。今まで見た中で一番大きな桜の木は、満開の花を散らしながら景色を彩っていた。
本来なら主役になってもいいはずの桜は、産まれたばかりの御子に座を奪われてひっそりとしていた。ここなら、目立たず、ゆっくりできるかもと立っていると、後ろから声が聞こえた。
「お前、桜の精か?」
振り返ると、紫の衣を着た男の子と青の衣を着た男の子が立っていた。
「えっ…」
「だから桜の精かって聞いてるんだ、答えろ」
「隼人、やめろ、乱暴に聞くと桜の精に祟られるぞ」
「祟るのは霊だぞ貴仁、こいつは精霊だから、あれ霊がついてる…祟るのか?」
二人のやり取りに吹き出した私を見て、つられて笑い出した。
「お前、人か?桜の精じゃないんだな」
「良かった、名を聞いてもいいか?」
「はい、明日香にございます」
「俺は貴仁、こいつは隼人だ」
これが舞い散る花びらの中で、三人で交わした初めての言葉だった。
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