第12話 突然の来訪

 月明かりのない夜は、灯りを焚いていても顔がよく見えない。それでも帝の一行は華々しい光を放っていた。

「急にすまぬ、どうしても媛に聞いておきたくてな」

「それは恐れ多い、こちらから参りましたのに」

「宮中では言えぬことのほうが多いから」

 言葉を濁したのは弟宮の息子、隼人様との婚儀のことを言っているように思われた。


「貴仁も隼人も媛が好きなようだ」

 唐突に切り出した帝にその場の誰もが固まってしまった。

「それはありがたいお言葉、光栄の極みでございます」

 父がかしこまって言うと帝はクスッと笑った。

「相変わらず嘘が下手だな高光」

「何のことでしょう」

「お前の算段では次の帝は弟と読んでいるのだな」

 あたふたしている父を楽しそうに見ながら帝が続ける。

「私も次の帝は弟で良いと思っている。貴仁には荷が重いだろうから、だがなそうなると貴仁はどうすればよい?弟も帝の立場になれば我が子を次の帝にしたいと思うだろう。それならばせめて妃はと思ってな」

「そのようなことは…」

「あるのが当たり前じゃ」

「隼人との婚儀の話は弟から聞いた。だが弟も気を使ってな、貴仁を差し置いて隼人との婚儀を決めるのは焦燥だと。それで貴仁と隼人と明日香媛がどちらを選ぶか決めさせたいと言ってきた」

「そ、それは…」

「お前にとっては不本意だろうが知らぬ仲ではない三人が親に決められた相手に、というのも無粋だろうて」

「…はい」

「それでな明日香媛、一晩でというのは無理があるだろう。七日考えて貴仁か隼人か選んでほしいのだ」

「七日…」

「どうじゃ」

 突然の申し出に混乱していたが、帝の願いを断れるものがこの国にいるわけもなく

「はい」

 深く頭を下げ返事をした。

「どちらを選んでも恨みはせぬ、弟ともそう決めた。それでな明日の夜、紫苑の館で内輪の宴を催す。貴仁も隼人も呼ぶので媛も来てくれるか?」

「それは…」

「そうじゃな、未婚のものが人目につくのはと気にしておるのじゃろ?今回は何人か妃候補も呼んでいるので気にせずとも良い」

「それならば…」

「そうか、よかった。高光お前は来るなよ。ややこしくなるからな」

「はい」

 釘をさされて、気落ちしたのか父が頭を下げたまま動かなくなった。


「明日香、明日は」

「父上、帝に言われたでしょう。私が決めます。私の相手ですから…」

 いつもなら口答えもできるはずのないことだけど、今回ばかりは帝の口添えもあって父の言葉を聞かないようにした。父や兄のいう政治ではなく、好きだと思える人のそばにいたかった。

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