第7話 行く末を決める宴とは

 紫苑の館から、どれほどの時が立っただろう。降ろしていた髪を結い上げるたびに文句を言う私と対抗する小夏のやりとりにも慣れた頃、御所で行われる葵の宴への案内が父のもとに来た。葵の宴はその年に成人の儀を行う者たちが踊りを披露する顔見せのようなものだ。成人の儀を迎えた女性も呼ばれるが御簾越しに男性の踊りを見て、歌を詠み上げると言う私にはつまらない宴だ。

「姫様、宴の衣はどうされますか?」

「何でもいいわ、小夏選んで」

「何でもいいなんて、奥様が聞いたら怒られますよ」

 家に籠もって、歌や踊りの練習をするだけの毎日はとんでもなくつまらないものだった。幼き日に二人に会えて、外の世界を知ることができた日々は、どれほどかけがえのないものだったか今ならわかる。

「明日香、衣は決まったの?」

 小夏の小言で母上に気づかなかった私は、あわてて伸ばしていた足を引っ込めた。

「明日香、宴は遊びではないんですよ、これからの行く末を決めるのですから、衣と香にも気をつけるのです」

「誰に見せるのですか?御簾越しに歌を詠むだけでどうやって先のことが決まるのですか?」

「そうね、常にあなたを見ている人がいるということを忘れず振る舞いなさい。そうすればあなたの行く末が開けるわ」

 聞いたことに対しての答えにはなっていないけれど、それ以上何も言わず、小夏に指示して部屋を出て言った。

「姫様、お顔の色が映える赤紫色の衣がよろしいかと」

「それでいいわ、小夏ありがとう」

「いいえ、でも姫様、御簾越しとはいえ、殿方ともお会いするのですから、恥ずかしくないように振る舞われますように」

「わかっているわ、小夏も母上と同じことを言うのね」

 成人の儀をすると、女性は髪を高く結い上げる。そして、大きな宴などでも婚姻してない姫君は殿方の前にはみだりにでてはならない。決め事が多く、作法を破れば常識のない姫君と噂されて婚姻が遠のくとされる。小夏も母上も私の立ち振舞で婚姻が遠のくのを心配しているんだろう。でも婚姻できなければ、家にずっといられるから、それも悪くないと思う自分もいる…兄上の小言に耐えられればの話だけれど。

「ねえ小夏、貴仁様と隼人様にお会いできるかしら?」

「そうですね、成人の儀は皆同じ頃に行うものなので、会えると思うのですが…御簾越しからでわかりますかどうか」

 小夏が、出してあった衣を片付けて、赤紫の衣をかけ、部屋を出ていった。つまらない宴でも、二人にまた会えるのなら、それは楽しみなことに思える。衣を見ながら、そんなことを考えていた。


 

 

 

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