遭遇
〈——!〉
轟音と反動とともに
「西本さん!実弾今ので最後です!」
『了解っ!! ——っ!!』
西本さんが脚部スラスター全開でAGEの振り下ろし攻撃を避ける。
あの回避は俺にはできねえな。
俺の機体はSa型だから長時間の超近接格闘戦には負荷が掛かり過ぎるし、そもそも俺が反応できない。
『ボサっとするな。実弾打ち尽くしたなら周囲索敵! 小型がそろそろ集まってくるぞ。......ふんっ! あとは佐藤にも現状伝達!』
「あっ了解!」
後ろにも目がついているのか、西本さんの叱責が飛んでくる。格闘戦中に的確な指示ができるのは流石だなあ(他人事)。
しっかしこの吹雪のなか格闘戦やってる西本さんやべえな。
でも良く考えたら今回の大型はしぶと過ぎるかもしれない。
あの
通常の大型なら4発も打てば霧散するのだが、こいつには全然効いていないようにも見える。
それに妙に動きがなめらかというか、何らかの気配を感じる気がする。
ひとまず大型から少し距離を取り広域レーダーを照射、地形読取、低波熱源センサー起動。
各部武装チェック。
プライマリ装甲電磁系圧73%、機体フレーム内部温度9.2度、装甲表面温度-1.8度、装甲相転移率89%で
戦闘ステータスで残り稼働時間30分ってところか。
中居さん達と合流する前に小型の掃討は終わらせないとな。
しかしこうも地形が険しいと小型一匹でも大変だ。
高度差的にはこちらが下。どちらかというと不利な状況ではある。しかも小型とは言え3機同時にこられると流石に辛い。俺は小型二体に相手に拮抗するくらいの腕しかないからな。
となると取れる戦術は基本的にひとつ。
やるしかない。
幸いというか西本さんが大型と交戦しているので、敵小型の進路は予測しやすい。
セクターイエローの敵の予測進路上に移動。
薬室にLHVAPを装填し腰部マウントにセット。左肩部のラッチからインパクトブレードを展開。中段に構え、セーフティーを解除。近距離から横薙ぎに一撃で堕とす算段だ。
背部スラスター角度修正。
敵小型、可視光線カメラで確認。距離15。
くるぞ……3、2、1、今っ!
背部スラスターをめいっぱい踏み込んで接近。距離7、3。そしてトリガーを引く。
撃鉄が落ち、ニュートラルになっている腕部関節を起点に音速の倍の速さでインパクトブレードが一閃される。機体に確かな感触。トリガーを離すと弾倉が回転し次発撃発位置へ。
同時に機体を押しのけるような白煙の発生、小型1体の撃破を確認。
インパクトブレードの
即座にライフルに持ち換え、今の攻撃で足が止まったセクターオレンジの小型に照準、発射。初弾敵小型の足元に着弾。誤差および偏差修正。次弾
距離12、8、5、今っ!
トリガーを引く。再び音速の倍の速さで一閃。
先ほどよりは少し浅い気がするが、視界が一気にホワイトアウトしたので霧散の発生を確認。
即座に残りの索敵。
「西本さん! 新たに敵中型、
『データ照合、こちらでも確認した! 現時点を以て大型の撃破を放棄し、ポイントベータ方向へ撤退しつつ中居班と合流!』
「了解!」
西本さんもこれ以上の戦闘継続は危険と判断したらしい。
『信号弾、D・E射出!』
上空に先ほどとは違う、緑とオレンジの信号弾が輝く。
〈——、——〉
チャンネルS3で佐藤から暗号座標が送信されてきた。
「西本さん!! デコードF2!」
『C3! よし。このまま回収ポイントへ直行する。各部武装チェックしとけよ』
「了解!」
ようやく帰れる。やれやれ、なんか変な敵だったが何とか生き延びられた。
各部武装チェック。
プライマリ装甲電磁系圧69%、機体フレーム内部温度10.8度、装甲表面温度-1.7度、装甲相転移率81%。
何とか保ったな。久々に単騎で多数を相手にしたからヒヤヒヤものだった。
『Rd2、ポイント到着。Css3、回収作業頼む』
『こちらCss3、Rd2を確認。一番テザー射出。格納庫作業班Aは待機してください』
『
「どうぞ! 後ろみてるっす」
『こちらCss3、Sa3へ伝達。
何だ? 追われてるのか? 流石に中居班フルメンバー揃って単騎相手に逃げるだけなんてこと、仮にもありえない。
とりあえず警戒体制には入る。……あれ、CICって大地じゃなかったっけ。今のは玲華の声だったような……
「Sa3了解!」
一応ライフルのセーフティーは解除。および射撃体勢。
『Sa1よりCss3へ。正体不明の箱を確保した。爆発物でないことは確認済みだが、詳細は不明だ。艦載許可の判断を委ねる』
どういうことだろう。こちらのモニターには一切の熱源は表示されていない。サイズはへミスのマニュピレーター片手では掴めないくらいの大きさに見える。爆発物ではないとのことだったが、玲華はどうするんだろう。
『Css3よりSa1へ。当該オブジェクトの破棄を指示します。TCV332』
『Sa1了解。破棄します。TCV332』
何だ? 個別暗号通信へ切り替え?
……332、と。
『こちら佐藤です。中居さん。その箱を持って上がってください』
『了解』
中居さんがナパーム弾を地面に二、三発撃っている。破棄したという建前か。
……いよいよキナくさくなって来たな。とりあえず上げてもらうか。
『こちらCss3。Sa3へ、二番テザー射出。準備を。格納庫作業班Bは待機してください』
「Sa3了解。結局大地が操舵やってんのな」
『テザーロック。巻き上げ開始』
「嘘だろ!? 届いてないって! いや悪かったから許して!!!」
『一応近接戦闘させられてたんだから労わってやれ、とのことなので勘弁してやります』
っぶねー。
大地サンキューな。ってあいつも被害者か。お互い大変だな。
「こちらSa3、二番テザー固定完了。引き上げ願います」
『接続確認。巻き上げ開始。続いてSa1へ、三番テザー射出。準備を。格納庫作業班Cは待機してください』
ん? そういえば同時巻き上げやってんの? この暴風域で?
『玲華テメェ覚えとけよ!!! クソッタレ!!!』
あー……ドンマイ。
─────────────────────
前回の続きと言いつつ、描写が前後しました。
次回は前回の中居班およびCss3艦橋のシーンの直接の続きになります。
次で雪まつりは終わりになります。
箱の中身は何なのか。
なぜ佐藤はログを分けてまで回収指示を出したのか。
その辺を次号書こうと思います。
よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます