『ブリッジより全艦へ通達します。1710以降、DCダメージコントロール班及び解析班以外の要員は後部区画へ立ち入らないように。繰り返します──』


「ほんとに何が入ってんだか」

「気になりますよね」

「うわっ、梶谷か。びっくりしたぁ」

「うわって何ですかうわって。私はゴキブリか何かですか」


相変わらず七面倒くさい後輩だ。何が哀しくてこんな疲れている時にコイツの顔を見ねばならんのか。心底疑問である。

「いや、あまりにも気配がなかったから気付かなかっただけで

「そうですよね存在感薄いですよね。なんで私なんかが選抜されたんでしょうか。今からでも吹雪に飛び込んた方がいいですよねそうですねありがとうございました」

「ちょいちょいちょい、待てって」

あらぬ所へ行こうとする梶谷の襟首を掴む。


「ぐェッ」

「や、そんなに強く引っ張ってないぞ」

せいぜい息が止まる程度だ。死にはしない。

「私は死んだ蛙です」

「さいでっか」

いつもながら何を考えているかさっぱりわからない。

なんなんだろうこいつ。

そういえば野生で生きているカエルは小さいころに見たきりだな。いや、あれも冬眠していたから正確には見たことはないか。

「こっそり見に行きませんか?」

「死んだ蛙を?」

「……はぁ。そんなに私の醜態が見たいんですね。わかりました」

おもむろに作業服を脱ぎ始める梶谷。

「え、なにしてんの」

「蛙は服着てないですからね」

「は?! おいどこまで脱ぐつもりだ!?」

「勿論全部ですけど」

「ちょいちょいちょい」

とんでもない後輩の手を掴み、手を止めさせる。マジで何考えてんだか。

すると梶谷は、今日初めての満面の笑顔を見せる。それも不自然なほどに。


「さて愚かな先輩に質問です。この状況、他の隊員が見たらどう思うと思います?」


……ヒェッ


恐怖! 悪魔ミイラへミス馬車でやってくる

前から恐ろしいとは思ってたけど、ここまでとは。

これは確かに吹雪の中に放り投げたお許しくださいしたほうが良いかも知れない。

こいつの恐ろしいところは、俺以外にはこの魔性を現さないとこだ。

だから誰も信じない。

まあ佐藤は何故か同意してくれたが、あれは単に佐藤がいい奴ってだけだろう。

とにかく急いで逃げないと。


振り向いて逃げようとした俺の手を細い手が掴む。

「どこにいくんですか先輩。後部格納庫はあっちですよ」

「悪魔のような後輩から逃げるんだよ」

「悪魔のようなは酷いんじゃないっすか?」


え?


「あ、信彦くんどうも」

「芹佳と井上先輩も覗きですか?」

「あぁ……うん。そうだよ」

「じゃ、見つかった時は連帯責任っす」

「いやここは一番年上の井上先輩が責任取ってください」

「それもそっすね」


えぇ。


というか高橋はいつから居たんだ。

いつの間にか梶谷の作業服は何事もなかったかのように戻ってるし。

もうやだこの子達。


しぶしぶついて行くかわいそうな井上くん。

すると前を歩いていたこわーい梶谷くんが振り向いて耳打ちしてきます。


ノチホドヘヤ部屋


かわいそうな井上くんは、きょうふのあまりうなずくことしかできませんでした。


「なんなのこの人……」


つづく


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