ちくわの行列

汎用ライフルによる模擬弾使用時の有効射程は、およそ50と言われている。弾体の柔らかさによる直進安定性の低さが主な原因だ。

しかし、有効射程とは別にそれ以上の距離に飛ばないという意味ではない。


そして世の中には暇な人間もいるもので、実戦で全く役に立たない模擬弾の有効射程を己の技術だけで伸ばそうと、彼は励んでいるのだ。

何故なにゆえかと彼等に聞けば、皆口を揃えてこういうだろう。


『楽しいから』


これに限らず、なんの役に立つのかわからない技術を日夜極めている伊達と酔狂の集いが、ザフスト北部第三支部駐屯部隊の実態だったりする。



眼前のに意識を戻す。

彼我の距離が100を切ったところで腰部武装ラックから汎用ライフルを取り、敵機の予想進路上に模擬弾を3点バースト。

誤差±3mで敵前方地面に着弾を確認。クソ度胸なのか、マグレだと思っているのかは分からないが、一切の反応は無し。


距離75。

敵機頭部照準、バースト。

頭部と右肩部、左肘部外端へ着弾。

今更だが、被弾及び撃破判定はコンピュータにより、半壊・全損等が判定され、以降の模擬戦のかん相応に機能を停止する。そしてこの被弾状況を判断するコンピュータの仕組みが、実に面白いのだ。※実際に面白いと思っているのは第三支部の阿呆共だけ


コンピュータが判定しているのは、"模擬弾"と認識される飛翔体が当たったかどうかではなく、機体装甲に掛かった"衝撃"により、何が当たったのかを判定をしている。そしてそのセンサーは、当然ではあるが装甲表面ではなく装甲基部についている。


すると何が起こるかというと、本当に特定の条件下だが、複数の衝撃が機体に起きた時に、機体のフレームにより伝達された振動により、存在・・しない被弾・・・・・を認識するのである。


***


当てずっぽうで射程外から弾を撒き散らすとはバカだなぁ!

たかが田舎の一部隊、間違いなく大したことはない。全ての隊員が単騎で中型を撃破できるとか聞いたが、やっぱりウワサだけだな!


〈〈──!〉〉


再度の敵の射撃警告。

学習しないな。当たるわけないだろう? あや、この軌道だと当たる?

いやまさか!


《! ! !》


鈍い衝撃が機体に入り、メインカメラの映像が途切れる。クソッ、運が悪いな!

補助カメラに切り替える。機体状況モニターを見やると、メインカメラと右肩基部が全損判定となっている。

は? ありえん。マグレにしても距離による威力減衰によ


〈〈バイタルエリアへの被弾を確認〉〉



***


演習終了。


運が良かったな。流石にあの、狙って・・・起こす・・・誤作動・・・は3回に1回くらいしか発生しないからな。

とはいえ、直進しているモビルスーツの関節基部を狙うことくらいはできる。そして何処に当てれば発生しやすいかというのも経験則によるデータがある。あとは当てるだけだ。


『おい! イカサマもいい加減にしろ! それにあんなマグレは無しだ!』


案の定というか、往生際の悪い奴だ。そのまま引き下がっておけば、寧ろ恥を晒さずに済むというのに。


溜息をつきながら通信回線を開く。

「イチャモンは良いが、今度はどうしたい。……そうだな。ある程度のハンデなら受けてやろう」

『なっ……! てめぇ、とことん馬鹿にしねぇと気が済まねえのかっ!?』

「そうだ。自分は今、非常に気分が悪い」

『っ……!』

「本当なら事故を装って息の根を止めてやりたいところだが、生憎こわーい整備のお兄さんから、フィールドモーターの摩耗を抑えてくれとお願いされているからな。精々暫くモビルスーツに乗れなくなる程度だ」

『っ……』


こんなもので気圧されるとは、こいつ本当に実戦経験あるのか?

気勢が削がれたな。

何度もやるのも面倒だ。次で終わらせよう。


「次は汎用ライフルも模擬刀もシールドも外してやる。これでも文句があるなら、即ぐに楽にしてやる。選べ」

『……っ。恨みっこは無しだぞ!』

「元より怨みを買っていることを覚えておけ。では始めるぞ」

『クソッ』


全ての武装を解除しトレイラーに載せる。

よくよく考えればRd型でFn型を相手してやるのだから、ハンデの一つや二つ必要じゃないか、と気付いたのは通信を切ってからだ。少し頭に血が登り過ぎていたようだ。少し手心を加えてやろう。具体的にはミンチは勘弁してやる。


その後、自機の加速の衝撃をモロに食らったガルシア隊長は、佐藤の予想を上回る衝撃により、危うくミンチになりかけたとだけ記録しておく。

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