戦闘業務

さて。

「中村さん、発進シークエンス短縮しサボります。第3ハッチ開けてください」

『また隊長にどやされるぞ』

「遅れてまた怒られるよりマシっすよ」

『ははは、まあ善は急げってな』

「……それはなんか違くないっすか」

『固定外すぞー』

「了解っす」


小さくない音と共にMSハンガーの固定アームが解除される。

本来はこのMSハンガーユニットごと滑走路へリフトアップし、そこで離脱するのだが、正直めんどくさいしよく短縮する。

これは整備的にも楽なので別に怒られることでもないと思うが、隊長は原則やるようにとよく言ってる。

やるメリットとしてはハンガーユニットが電源ラインと接続しているから、MS稼働時間が延びる、発進時のカタパルト接続による関節負荷の軽減、カタパルト発進による燃料の節約、等々。

まあまた今度余裕があったらやろう(はなほじ


第3リフトの上部ハッチが完全に開いたことを確認し、脚部スラスター出力を解放。開口部を抜け、滑走路へ。

今更だが、MS格納庫は地下にあるので、こういうことになっている。


「こちらN3112井上機、4番滑走路を東2進路で離陸します。離陸許可願います」

『こちら東管制塔、N3112 H-SPHERE Sa3発進を許可します』

「了解」


各部バーニアを吹かしてホバーし、メインスラスターを全開にして飛翔する。

んでここでカタパルトが使えないからメインスラスターのアフターバーナーで二次加速を掛けるのだが、ここも怒られポイントだな。


アフターバーナーというのは簡単にいうと燃料直燃やしによる推力なので、アホほど燃料効率が悪い。

だから怒られる。

困ったなあ。


機体の進路をイザナギ海岸東側に向け巡航速度へ移行する。

空力制御オン。各部武装チェック。


あー急がないと隊長に怒られるー


二分ほど東に飛ぶと海岸線に爆発が見えた。

降下点視認。着陸姿勢。対地距離182。


あ、隊長の機体だ。

見ていると、対艦刀で中型のAGEの腹を切りいてグレネードをゼロ距離でぶち込んだ。

うわぁ、相変わらず隊長はえげつないことをするな。


『隊長、コーチン来ました』

『やっと来たか。遅いぞ井上! さっさと配置に着け!』


そんな怒らなくても。

つーか俺要らない気がしてきたな。

「はーい。残存する敵総数は?」

『中型が2、小型が7。今のところは増援なし』

「隊長、それフラグです」

『……各機小型掛かれ!』


うーん。まあ流石にないか。

とりあえず小型に向かって威嚇射撃いかくしゃげき。小型の体勢が崩れる。

すかさずライフルを腰部のマウントに戻し、スラスター全開で突撃。


フェイズシフト装甲を起動。

装甲が電圧により相転移そうてんいし、並大抵の物理攻撃は通らないチート装甲となる。

ちなみに色は変わらない。兵器だから。強いて言うなら金属光沢が弱くなる。


ギアをニュートラルからアッパーに入れ、セレクターレバーを近接格闘へ入れ、背面に装備している対艦刀を持つ。

中段に構え、そのまま腹部を貫くと同時に肩部スラスターと脚部スラスターで急制動。

飛び散る金属の飛沫しぶきに構わず、すぐさま横に切り払う。

ギアをボトムに入れ、後ろに跳びつつ脚部スラスターもふかして下がる。


爆散。


しかし不思議と破片のひとつも飛んでこない。そういうものだ。

着地して索敵。後ろで2つ爆散反応。これで小型は残り4か。

対艦刀を背中のラックに戻す。


『私はオレンジの残り2つとその奥の中型をやるから、康太と玲華れいか正面グリーンの二匹と中型を』

『了解』

「はい。玲華、アルファー・デルタのやつ頼むわ」

『分かった』


俺は正面グリーン右側ブラボー・チャーリーの奴に照準を合わせて軽量徹甲弾を撃つ。

しかし貫通はせず衝撃だけが通る。やはり硬い。

弾がもったいないので再度突撃。

またぶった切って仕留めようと思ったが、さっきの隊長のやり方を少し真似してみるか。

ライフルを腰部ラックに戻し、セレクターレバーを操作し、指向性TNTグレネードに持ち換える。


そういえばだが、AGEの攻撃手段は主に3つ。

1 本体による肉(?)弾攻撃

2 本体の一部(?)か何かを飛ばす攻撃

3? 自爆


なので致命傷を与えたまま放っておくのはとても危険。

かと言って不用意に近づくのも危険。

だから、煙幕やら弾幕やらで動きを止めてから接近してとどめを刺すのがベスト。

まあコスパ的にも。


というわけでグレネードを投げる。

こいつは自律慣性ジャイロ制御で指定した目標に向くスグレモノだ。ちょっと高いけどね。


放物線を描いてAGEの右側面に到達した瞬間、炸裂さくれつ。AGEがよろける。

だがこれでも倒すには火力不足だ。すかさずライフルを装備し、今の攻撃で溶けたところにマガジンの残りを撃ち込む。6発目で内側から弾けて爆散。


やれやれ。

左で爆散。玲華も終わったらしい。


『どうする』

んー。

『はやく決めて』

「わかった、俺が斬り込む。援護よろしく」

『解った』


やれやれ。大地がいないとこれだよ。


玲華がアサルトライフルと炸裂弾で牽制する。

数秒間の弾幕後、焼夷弾しょういだんを投げたので突撃準備。

焼夷弾が5m手前で炸裂し、中型全体に燃え広がる。


ギアをローに入れてジャンプ。ギアをアッパーに入れて、対艦刀を振りかぶる。

そのまま降下。機体の質量と運動エネルギーで切り裂く。

っと思ったら途中で引っかかった。まだ温度が低かったか。

やっべ。

すかさず対艦刀を離し、ギアをボトムに入れてジャンプしながら下がる。


「玲華、えんg」

その瞬間目の前で閃光とともに爆発。

……おいおい。下がってなかったら俺に直撃だぞ。


「おい玲華! 今俺ごとやる気だっただろ!」

『大丈夫。死にはしない。お見舞いもちゃんと言ってあげる』


こいつ……くっそ。

「まあいいや。隊長の方は?」

『今終わったみたい』

後ろで爆発。やれやれやっと終わりか。 疲れた。


「隊長お疲れさまですー」

『各機、損害はないか?』

『ないです』

「玲華が至近距離で爆裂弾を使ったのでなにかあるかもしれません」

『異常はないな。帰投する』


ひどくない?


ぞんざいな扱いに意気消沈いきしょうちんしながら仕方なく帰投した。

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