第5話 奇兎目線 「私の今の居場所」(1話・2話に相当)

奇兎です。


私には居場所が無いと思っていました。ずっと空から人々を眺めているだけです。

雪が降り、積もった朝、みんな大変そうでした。それでも、会社や、学校に行く人でいっぱいです。

私は自分が決めた人にしか見えない存在。だから、だれも奇兎の事を知らない。


雪が積もっただけで、他はいつもと変わらない風景にちょっぴり飽きてしまった私は、積もった雪を体験したくて人通りが少ない道を探しました。

だけど、どこもかしこも人通りがありました。そんな中から、一番人通りが少ない道を見つけ、そこに行きました。


他の人には私は見えないけれど、実体はある。なら、雪に足跡を付けることはできるはず。そう思って地上に降り、一歩踏み出してみました。

すると、私の足は雪の中に埋まり、ちょっぴり痛い冷たさが足を覆いました。足を引き抜くと、一つの足跡が出来ていました。

たったそれだけの事なのに楽しくなってきてしまい、ザクザクと歩みを進めました。

ある程度、進んだところで足が疲れてしまい、地面を離れました。


(普段、ずっと空に居るから歩きなれていない…。)


特に意味は無いのですが、その付近をうろうろとしていました。

そんな時、一人の男の子が私の作った足跡を追っているのが見えました。すると、男の子は途中で立ち止まりました。

そうか、私が途中で歩くのをやめたから。

途切れた足跡にその男の子は周りをキョロキョロとして困惑しているように見えました。

男の子がそこから立ち去ろうとした時に、私は。


「ねぇ、君についていって良い?」


と、その男の子に姿を見せ、言っていました。


この時の私は、嬉しい気持ちでいっぱいでした。誰からも見えない私は足跡と言う形で、人に見てもらえたのです。男の子はいきなり現れた私にすごく驚いている様子でしたが、最後には付いてついていって良いよと言ってくれました。


そして、私は、この男の子、雷兎にだけ見える存在となったのです。


その日は雷兎の邪魔にならないように学校に居る間はおとなしくしていました。


私は居場所が欲しいと思っています。でも、それが何の居場所なのかは私にも分かりません。

だけど、今は雷兎の側に居ることが私の居場所です。

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