第14話 気持ちが表れたチョコ

いつもより少しだけ早く起床した雷兎は体を起こしたときに、枕元に何かの包みが置かれているのと、そのそばで規則正しい寝息を立てて寝ている奇兎を見つけた。

枕元に置かれていた包みをそっと持ち上げると可愛らしい文字で「雷兎へ」と書いてあった。包みを広げて中を見るとお菓子が入っていて、甘い匂いが鼻に届いて中身が何かを理解した。

中身が分かったうえで奇兎を見る、そして手に持っている物を見る。

……奇兎からのチョコ!?

と、声には出さずに心の中で盛大に驚いた。まさか貰えるとは思ってもいなかったのだ。嬉しさをかみしめた後、落ち着きを取り戻し奇兎が寝ているところが冷たい床であることに気が付いた。

夜中からここで寝ていたのなら奇兎の体は相当冷えているはずだ。冬の家の床はとても冷たい。そんな場所に正座をするようにしてベッドを枕変わりに寝ている奇兎。

このままにしておくのは奇兎に悪い気がしてベッドに移動させることにした。今日は学校もなく暇なので寝かせておこう。

急いで服を着替え、布団をめくっておく。


奇兎のところに戻ってどんな姿勢で寝ているのかを確認した雷兎はまず、右手を奇兎の胸の前に通して、起こさないように広げた左腕に肩が乗るようにゆっくりと動かす。空いた右腕を膝下に滑り込ませ、膝裏に腕が入るだけのすき間を確保するために足を持ち上げ、体を奇兎から見て後ろ方向(雷兎は左に少し移動)にずらし体育座りの姿勢を取らせる。

これだけ動かしても起きる気配が一向にしないので眠りはかなり深いようだ。

空いた膝裏に右腕を通し、お姫様抱っこで一気に持ち上げる。奇兎を持ち上げたのはこれが初めてで予想よりも軽く、小さかった。あと、柔らかかった。奇兎は人間なのか分からないけれど、軽いとは言いつつ人の重さをしていたのでよく分からない。

今起きたらあたふたと慌てる奇兎が安易に想像できてそれもそれで面白いなと雷兎は思った。

ベッド上に移動させて、ゆっくりと体を降ろし姿勢を整える。最後に布団をかけ、移動完了。


静かに部屋を出た雷兎はリビングに行き、親が仕事に出かけていることを確認した。そのままキッチンに立ち朝食の準備をした。昨日の残りを温め、ご飯と味噌汁を注ぐ。

残ったご飯をラップに包んで奇兎の食べるおにぎりを作った。


いただきます。料理に手をつけたのは良いものの―

「奇兎の寝顔、可愛かったな………」

可愛さに充てられ気がついたら食べ終わっていた。食べている記憶がまるで無かった。


おにぎりを持って部屋に戻り、ベッドを見たが相変わらずぐっすりと眠っていた。

そのうち起きるだろうとSNSなどを見て待った。

少し時間が経って視界にもぞもぞと動く奇兎を捉えた。ゆっくりと瞼を開け、ポーっとしている奇兎に「おはよう、奇兎」と挨拶すると、寝ぼけているのか「んー」と返ってきた。同時にまた瞼を閉じた。

ちょい待てや。

「ほら、起きるよ!おにぎり作ってきたから」

やっていることがもはや親じゃんこれ……

優しく揺すりながら声をかけたことで意識がはっきりしたらしく、おはようと今返ってきた。


「ふわぁ…あれ、なんで私こんなところに…?」

「ベッドを枕にして熟睡していたけど床だし寒そうだから移動させた。お姫様抱っこで」

「へぇありがt…ちょっと待って、最後何て?」

「お姫様抱っこで」

みるみるうちに赤くなっていく奇兎を眺めていると羞恥の限界が来たらしく、シュバっと布団に潜った。それが面白くて声に出して笑っていると隙間から顔を出した奇兎に「ばか、いじわる」と可愛く罵倒された。

バレンタインは知らなかったのに、お姫様抱っこは知っていたらしい。


「体は大丈夫か?」

「んーなんともにゃーい」

羞恥が引いた奇兎は作ってきたおにぎりを美味しそうに食べていた。具は何も入っていないのにここまで美味しそうに食べられるとうれしくなってくる。

「はー、ごちそうさま!」

「ありがとう、美味しそうに食べてくれて。ほらラップは捨ててきね、お皿は僕が洗うから」


片付けが終わり、リビングでウロウロしている奇兎をソファーに座らせ、実はずっと持っていたチョコの入った包みを見せながらありがとうと伝えた。


「ううん、こちらこそ。短い間だけどたくさんお世話になったんだから。お礼も兼ねて頑張って作ったもん。ねぇねぇ食べてよ!味は大丈夫だから!」

「そうだね、奇兎の作ったチョコ早く食べたい」


包みから小分けされたチョコを一つ取り出して形から楽しむ。

手に取ったチョコはいつもの茶色で、その上にストロベリーのチョコがコーティングされていて、上から見ると完全にハート型をしていた。口の中に放り込んで味を楽しみながら気になったことを聞いてみた。


「ねぇ、奇兎、これ何チョコ?ほら、義理とか色々あるでしょ?」

「え!?…えーっとその~」


視線があっちこっちに彷徨ってだんだんと声のボリュームが落ちてきた。

うーっと唸って、勢いよくソファーから立ち上がり雷兎の正面に立って目をギューッと瞑りながら叫んだ。


「ほ、ほ、本命チョコのつもりで作ったの!!」

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