第13話 奇兎目線 バレンタイン

「あぁ~」

「…何かあったの?ねぇ、教えて?」

「奇兎は、バレンタインって知ってる?」

「ばれんたいん…?何それ?」


「バレンタインっていうのはね、女の子が好きな男の子にチョコをプレゼントする日のことだよ。」


と、説明してもらった奇兎は早速準備に取りかかった。また、雷兎が最後に言ったことを聞いて恥ずかしくなってしまって宝石になって逃げた。


奇兎が宝石状態の時はその中では現実には起こりえないことが出来る魔法のような空間。奇兎はこれを利用してバレンタインとやらの準備を始めた。この空間ならチョコを作る出すことだって出来るはず!バレンタインは今日だけ。だから少しでも早く雷兎のところに戻らなければならない。


どんなチョコをあげれば喜んでくれるかな?

どんな気持ちを込めれば嬉しいって思ってくれるかな?


ああでもないこうでもないと色々考えたけれど、どれも満足のいくチョコを作れない。外はもう放課後になっているようだった。早くしなければと思えば思うほど上手く作り出せない。焦りがどんどん出てきてしまう。


私は少し落ち着くために雷兎と話すことにした。もう家に帰っている頃だと思う。

帰宅しているのを確認して私は人になってすぐに雷兎に向かってスライディング謝罪を決め込んだ。

「ごめんね、雷兎!その…いきなり宝石になってそのまま顔出さなくて…」

「そんな、謝るようなことじゃないよ。奇兎だって色々と考えたいことだってあるだろうし。僕は気にしてないから奇兎も気にしなくていいよ」

雷兎は私の頭を撫でながら言ってくれた。撫でられて少し落ち着いた。それと同時に幸せな気分にもなった。ずっと撫でられていたいけど、このまま撫でられ続けたら多分準備に戻れない…


「ん、分かった。分かったから一旦離して?私、やりたいことあるから!」

それを聞いた雷兎はおとなしく下がってくれた。ほんとに優しいなぁ。

「雷兎、また後でね。その時も頭撫でて?」

「それくらいならいつでもするけど?今撫でて分かったけど、奇兎の髪、サラサラして触り心地良いし、撫でてる時の奇兎の顔がかわいいって新しく分かって嬉しかった」

「…!?…あ、ありがと」


いきなりサラッと可愛いなどと言われた私はまともな返事をすることが出来なかった。かろうじてありがとうと言えたくらいだ。

…今の私、変な声出てたよね…!?私、絶対顔赤くなってるよ!

「…ところで奇兎?やることあるんじゃないの?」

「あ…」

そうだった!

私は慌てて宝石になろうとしたけれど、その直前に衝動的に雷兎に抱きついた。サッと離れて今度はちゃんと宝石になった。抱きついた時の雷兎の慌てぶりはちょっと可愛かった。

話す直前まであった焦りはもうなくなっていて、話して正解だったと感じた。

作業に戻り、今まで考えて作ってきたもの全部を消した。そしてゼロからまた作り出す。もう迷いはなくてサクサクと進んだ。作っているときはさっきよりも楽しくて奇兎自身も嬉しくなった。


雷兎と出会ってから短い間、代わり映えのしないごくごく普通の生活が続いた。だけど、その生活は幸せで、毎日が楽しくて…ずっと雷兎のそばに居たいと思った。

バレンタインは同性に渡す友チョコ、お世話になった人に渡す義理チョコ、そして好きな人にチョコを渡す本命チョコがあることをバレンタインについて教えてもらっているときについでに教えてもらっていた。


(なら、私がチョコを渡す理由ってなんだろう?)

元々、この件について私が勝手にやり始めたことだった。今更になって渡す理由が分からなくなってしまった。


友チョコ?

自惚れていなければ私と雷兎は友達のように、もしくはそれ以上に仲が良いと思う。だけど、何か違うような…物足りない気がする。。


義理チョコ?

お世話にはなっているのはそうなんだけど、やっぱり何か違う。


本命チョコ?

雷兎のことが好き…なのかは分からないけれど、前二つに比べたらしっくりくる。

…うん、本命チョコのつもりで渡そう。そうと決まれば私は最後の仕上げに取り掛かった。


チョコが出来上がったのは夜中だった。肝心の味のほうはすでに確認済み。

まだ日付は変わらない時間ではあるけれど雷兎は起きているだろうか。起きていれば直接渡したいと思い、宝石から外を除いたが雷兎はもうベッドに入って熟睡していました。

「流石に寝ちゃってたか……、はぁ~」


人に戻った私は手に持ったチョコを見ながらどうしようかと少し考えました。渡すためだけに起こすのは雷兎に申し訳なく思って他の案を思いつこうとしても疲れていたのか頭が回りません。そこで、仕方なく雷兎の枕元にチョコの入った包みをそっと置きました。その時、雷兎が私のいる方向に寝返りをうってきました。

その時の雷兎の寝顔にひかれ少しだけ見ていましたが、その数分後には睡魔に負けて意識を手放していました。


翌朝、気付けば私はベッドに寝かされており、すでに起きていた雷兎に「大丈夫?」と心配されました。


チョコの件については次回お話ししますね。

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