第12話 バレンタイン

奇兎と初めて会った頃よりも一日が寒く感じる。今は一年の中で一番寒いと言われている2月。雪は降っていないようだけど、地面がやや白かった。あれは霜だろうか。ひとたび外に出れば、全身が寒さで覆われる。長時間出ていれば耳とかが痛くなりそうだ。はぁっと息を吐くとその息が白くなる。

そんな中、道中で滑らないようにゆっくりと学校に向かう雷兎の横には奇兎が居る。会ってから毎日と言って良いほど一緒に登校している。だけど、この光景は誰にも見られていない。不思議なものだ。


校門をくぐり教室に着くと、教室の中の空気がどこか浮いているような気がした。主に男子生徒が。このいつもと違う空気には奇兎も疑問に思ったのか不思議な顔をしている。

今日何かあったかなとスマホを確認すると、答えが載っていた。

今日は【2月14日】。そう、バレンタインデーだ。どうでもよくて忘れていた。

ちなみに雷兎は親以外から受け取った事は無い。そこら辺にごまんといる女性経験皆無の人間だ。


「あぁ~」

「…何かあったの?ねぇ、教えて?」

「奇兎は、バレンタインって知ってる?」

「ばれんたいん…?何それ?」


知らないようなので自分の席に腰かけて会話が他人に聞こえないことを良いことに奇兎にバレンタインとは何かを簡単に教えた。


「そんな素敵なイベントがあるのね!それが今日なの!?」

「そうだよ。だから、男子たちはソワソワしてるんじゃないかな? もらえるかもって期待してね」

「雷兎はソワソワして期待とかしないの?」

「もらえるような仲の女子なんて居ないし、そもそも女子とのつながりが無いからね。あーでも、強いて言うなら奇兎だけだよ?こんなにも話せる女の子は」

「…へ、…え!?」


そのまま奇兎はあたふたして、本人の意思で宝石に変身し雷兎のカバンに入った。逃げたって言っても良いくらいに慌てているようにも見えた。

授業が開始され、あっという間に放課後になったが帰宅途中も奇兎はカバンから一切出てこなかった。


この日、雷兎が確認できただけで女子からチョコを受け取っていた男子は十人もいってなかった。もしかしたら隠れて受け取っている男子もいるかもしれない。

もらえなく撃沈している男子に雷兎は心の中で同情の念を送っておいた。

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