第4話 奇兎のこと少し知れた気がする
母親の帰りが遅いという事なので、夕食を取ることにした。
奇兎に夕食を食べるかと聞いたところ、食べなくても活動できるらしい。
奇兎は何者なのか。
何が目的なのか。
どうして雷兎しか奇兎を見ることが出来ないのか。
エトセトラ…。
気になることが多い奇兎はいくつかざっくりと答えてくれた。
(この間、奇兎はずっと食事をとる雷兎の方を見ていた。)
「初めて会った時も言ったけど、何処から来たのかも分からない。私が何者なのかも分からないんだ。でもね、目的があって雷兎の前に出たの」
目的…。奇兎の目的って何だろ。物騒な目的なら流石にまずいよな。それに何故、雷兎の前に現れたのか。他にも人はいっぱい居るのに。
「…! 安心して! 取って食べようとかそんな怖い事しないから!!」
慌てた様子で追加してきた。その様子はちょっと可愛いなと思ってしまった。
「…ちょっと安心した。じゃあ、奇兎の目的って何なの? それと、何で僕の前に?」
「それは…その…」
「……」
言えるようになるまで待ってあげることにした。
「……何も分からないこんな私だけど、なにか一つ居場所が欲しいの…!」
「……私、一人だから」
そういうことか、奇兎は寂しかったのか。それなら…。
「分かった。奇兎、居場所になれるかは分からないけどさ、一緒に居ていいよ」
「ほんとっ!!」
ぱぁっと顔が分かりやすく明るくなった。これでいいのかな。そもそもこれに正解なんぞあるのか。
夕食後、雷兎は奇兎と一緒に自室に来た。何か話している最中に母親が帰ってくるかもしれないと思った。
奇兎は窓から外の景色を眺めている。つられて見ると、外にはまだ積もった雪が残っている。見えている雪は茶色く濁っていて、朝のような風景とは全く違って見えた。
雷兎は椅子に座り、奇兎はベッドに腰かけて、部屋は静かになってしまった。
雷兎は奇兎の方を見ながら、「今日はあり得なさそうな事がたくさん起きたな」と、心で感じた。
奇兎は今、何を感じているのだろうか。「居場所が欲しい」と彼女は言った。
奇兎から視線を感じて、そちらを見る。すると、視線と視線がぶつかり、奇兎は目をそらした。
「あのさ、さっきの質問の続きの、何で雷兎の前に出てきたのかってやつだけど…。」
奇兎は目をそらしたまま言ってきた。
「うん?」
「雷兎は私が作った足跡を追ってきてくれた。学校があるのにもかかわらずね。なんかそれが嬉しくって出てきちゃった。でも結果的には良かったなって思っているよ。こうやってついていくのも許してくれたし。もし他の人の時に出てきていたら、今頃何しているんだろうね」
「答えになっているのか分からないけど、そういうことにしておくね」
「うん」
その後は、雷兎は学校で出された課題を進めて、キリが良いところまでやった。奇兎は時々進めている課題を見ていた。それ以外はベッドに座っていた。
「んーーっ!よし、お風呂行ってくるね」
「分かった~」
お風呂に行く支度を済まして、ついでにトイレに行った後、風呂場に行くと、奇兎が居た。
「ちょっと奇兎、何でいるの?」
「言ったでしょ、ついていくって」
「…流石に風呂場はまずくないですかね?」
「そう? なら部屋に戻ってるね」
「ぜひともそうしてくれ」
奇兎は風呂場を去った。やっと一人になれたから、湯船につかりながら、今日あったことをまとめて上がった。
自室に戻ると、奇兎は何もしていなかった。ただ、座っているだけ。
「奇兎は風呂とかは大丈夫なの?」
「大丈夫だよ~。そもそも汚れ付かないし、汗かかないし」
「さよか」
もう深く聞かないことにした。その都度色々聞いてたらキリがないでしょこれ…。
就寝時間がやってきたので、寝ようとするけれど、奇兎が居るじゃん。はて、どうしようか?
「奇兎、ベッドで寝る? 僕床で寝るよ」
「気にしなく良いよ、こうするから」
直後、奇兎の周りが薄く光りだして、その光が奇兎を包むと、奇兎は宝石になっていた。コロンっと机に転がった。この状態でも、僕以外に見えていないよね?
いや、待て、待て待て待て! そんな事より! これには突っ込まずにはいられない。
「奇兎、何それ!?」
宝石になった奇兎が応えるかのように光りだして、人の姿になった。
「あぁ、これ? これは私の就寝状態だよ。だから雷兎がベッド使って良いよ。先に言っておくと、宝石になっている時に奇兎って呼ぶと、今みたいに人の姿になるからね。もちろん、自分の意志でも出来るからね」
「…なるほど。分かったよ。それじゃおやすみ」
「おやすみ、雷兎」
そう言って、再び宝石になって、机に転がった。
(机に直に置いてあるけど宝石状態とはいえ申し訳ないな)
「何か良いものないか考えておこう」
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