第2話 二人の兎

目の前にいる少女は笑顔でこちらを見ていた。ゆっくりと見た目を確認する。もちろん知っている人ではない。今ここで初めて会った人。顔はこの辺では見ないほどの美人さん。身長とか雰囲気の感じ、年齢は同じくらいなのかな。そして雪のように白い服を着ている。

その間もその少女は笑顔のまま。この笑顔には周りも笑顔にしてしまうかのような魅力がある。短い時間で分かったのはそれだけ。

まず、誰なのか聞こう。


「えっと、君は誰なの?」

「私は奇兎(きう)。あとは分からない」


名前は奇兎と言うらしい。だけど、「あとは分からない」って…?

始めから訳が分からない。どうしたら良いのかも分からない。

鉄板な質問を奇兎と名乗る少女にしてみよう。


「どこから来たの? 親心配してない?」

その質問に奇兎は手で一と示して言った。

「どこか来たのかも分からない」


次に二と示して言った。

「大丈夫、親は居ないから。あっ、亡くなったとかの意味じゃないから!」


質問したら尚更訳が分からなくなった。結局分かったのは奇兎という名前だけ。うーんと首を傾げてふと腕時計が目に入った。指している時間はいつもなら教室に居る時間だ。幸い、遅刻になりそうな時間ではない。とりあえず学校に行かないと。でも、この子どうしよう。


「? どうしたの?」

「どうしたのって、これから学校に行かないといけないんだよ。でも、君をどうしようって考えていて」

「ん、大丈夫だよ、君についていくから」

「そういう問題じゃなくてね…」


この後、奇兎がとんでもない事言い出した。

「あー、言い忘れてた。私の姿君以外に見えてないから。だから付いて行っても大丈夫よ」


(なんだって…?)

今この子他の人には奇兎の姿が見えていないとか言わなかったか? そんな事実際に起きるのか…?

いや、でも、目の前の奇兎がそう言うならそうなんだと思う。

衝撃な事実を聞かされて、考えること数分。


「分かった。付いてきても良いよ。その代わり、学校が終わるまでの間、絶対に邪魔しないでね」

「分かった、終わるまで邪魔しないようにする」


しないようにするって…、ちょっと不安になった。

ひとまずはこれで良いだろう。完全に安心はしていないが学校に向かって歩き出した。

横に並んで歩いている奇兎が何かを思い出したかのような顔をしてこちらを見てきた。


「ずっと『君』って呼び続けるのもアレだし、名前教えてよ」

「名前?」

「そ」

「僕の名前は、雷兎(らいと)。風見雷兎だよ」

「雷兎君って言うんだ。これからもよろしく、雷兎君」


……これからもよろしくされるのか。これからどうなるのやら。

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