第6話 奇兎と過ごした朝(他意なし)

肌寒さが全身を遅い、一気に目が覚めた。布団は寝相が悪かったのか下半身にしかかかっていない。

ゆっくりと体ごと机のある方向に向ける。その時、何か光沢のあるものが視界の片隅に入った。その正体は奇兎の宝石だった。昨晩は机に居たはずなのに、その机ではなくて、雷兎が寝ているベッドに居た。位置的に雷兎の真横。


「…!?」


びっくりして跳ね起き、ちょっと距離を取ってしまった。恐る恐る奇兎の宝石に呼びかけてみる。


「…おーい、奇兎ー?」


奇兎の宝石はそれに応えるように光りだして、人の姿に変わった。雷兎が寝ていた枕もとで。


「…ふわぁ。ん、おはよう」

「…うん、おはよう、奇兎」


奇兎は目をしょぼしょぼさせながら周りを見渡して言ってきた。


「ところで、私、何でこんなところに居るの?」


「こっちが聞きたいわ! なに、宝石状態でも寝相とかあるの!?」


「わかんないけど、そういう事なんじゃない…?」


えーっと、奇兎は寝相が悪く、転がった結果枕もとに落ちてきて朝までそのままだったと。これは絵面的に良いのだろうか?

一般男子と、宝石とは言え女の子である奇兎と一緒に寝ていのか?

そう思うと恥ずかしくなってきた。それは奇兎も同じなのか、かすかに頬が赤らんでいた。


「……。」

「……。」

お互いに静かになってしまった。


数分後、落ち着きを取り戻した二人は部屋を出て、居間に向かった。


「なぁ、さっきの騒ぎも僕の親には聞こえていないのか?」


「そうだよ。私と話している時は絶対に他人には聞こえないよ。人の姿でも、宝石の姿でもね」


「…え? 宝石の時も会話は周りには聞こえてないの?」


「そう言ったじゃん、今!」


「まじか…」


雷兎は朝食を済ませ、朝の準備を終わらせて、テレビの電源を入れた。天気予報のチェックをしつつ、他の報道でも見る。今日の天気は晴れだそうだ。

窓の外を見ると、少しだけ雪が残っていた。今日の天気ならば、今日中にでも溶けきるのではないだろうか。天気が晴れと言われても、絶賛冬なので寒い。


登校する時間になったので、身なりを整え、奇兎と一緒に家を出る。周りの人から見れば、ひとりで歩いていると見えるだろうが、実際にはもう一人いると思うと、不思議な感じだ。


「晴れている時に奇兎と歩くのは初めてだな。初めて会った時は曇ってたし」


外は、予報通り晴れていた。地面はまだ濡れている。日陰のところはまだ雪が残っていて、明らかに滑りそうな見た目をしていた。

学校が近くなるにつれて、当たり前だがうちの学校の生徒が増えてきた。


校門に入る少し前で奇兎がまだ眠いと言い出し、宝石になったので、カバンにしまっておいた。カバンの中なら、寝相悪くても落ちることはないだろう。


教室に入れば、またいつもの生活になる。授業して、授業して、放課後。

教室にストーブがあったので、奇兎の宝石も自分のついでに暖めてあげることにした。念のため、皆からは見えない確度で、宝石をストーブに近づけた。近すぎても後で怒られそうな気がしたから、ストーブからは少し離してある。

ちょうどいいくらいに手が暖まったので席に戻る。時計を見ると、次の授業までまだ時間があったので、あることを考える。


今日のすべての授業が終わり、放課後となった。ちなみに奇兎はずっと宝石のままだった。今日は近所のショッピングモールに出かけたいから、その旨を母親にスマホで伝える。

ショッピングモールに行こうにも、用が奇兎に関しての事なので、学校から少し離れた道で宝石に呼びかける。


「奇兎、起きてる? ちょっといいかな?」


すると、毎回のごとく、宝石から、人の姿になる。


「……なーにー?」


「今からショッピングモールに行こうと思うんだけど、一緒に行かない?」


「行く!」


即答だった。何と聞いてきたときは少し機嫌が悪いようにも見えたけど、気のせいか?


そのまま二人並んで歩いて、目的地のショッピングモールに着いた。


「…ところで雷兎。ここに何しに来たのよ?」

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