第10話どちらを選べばいいのか…
その日の夜。
不機嫌そうに奇兎が寝入ってからも雷兎は起きていた。いつもなら寝ている時間帯である。時計を見れば日付が変わる一時間前だった。それでも寝られない理由がある。
視線を宝石に向けて、ゆっくりと手に取って目の前に移動させた。暗い部屋ではあるが、改めて宝石を見てみると、何とも言えない不思議な光を放っているように見える。もっと見てみたいと思ってしまい、机の電気を付けた。宝石は奥のものが透けて見えるくらい透明感があって見入ってしまう。
(一緒に寝てもいい…か。)
今日は朝から今に至るまで同じ事を考え続けていた。それでも答えは出なかった。奇兎はどういう存在なのか分からないけれど、見た目は高校生くらいの女の子。そのことに雷兎は一人の男の子として思うところがあった。思春期真っ只中な年齢だから、色々考えてしまった。だけど、奇兎はそんなこと考えてもいないだろう。純粋に一緒に寝たいと思っているのかもしれない。
……。
「…僕はどうしたいんだ?」
気付けば自分に聞いていた。寝たいのか寝たくないのか。出来ることなら、一緒に寝てあげたい。
もしここで寝ないという判断をしたら奇兎はどんな気持ちになるか。悲しい、寂しい、そう思うかもしれない。雷兎はお願いを聞いてくれないと思われるかもしれない。そう思われるのが一番心に効く。出会ってからそう長くはないけれど、お互いの仲は深まっていると思う。けど、この判断で仲が崩れるかもしれないと思うと不思議と胸が痛む。それだけ奇兎の存在が雷兎の中で大きくなったということなのだろうか。
(僕はこれからも奇兎と仲良く過したい。もっと仲良くなりたい。)
なら、僕が選ばなくてはいけないのはどっちだ?
僕は喜んだり、笑顔を向けたりしてくる奇兎を見たい。奇兎が悲しみことは些細なことでもしたくない。
もうこの事に悩む必要はないな。宝石を見つめながら優しいを笑顔一つ。
雷兎は机の電気を消してベッドに横たわった。そして、十分も経たずに意識を飛ばした。時計が指していた時刻は日付が変わって少しが経っていた。
そして一日中悩みに悩んで雷兎が選んだのは―
スヤスヤと規則正しい寝息を立てている雷兎の手の中には奇兎の宝石が握られていた。
(朝には見事に寝坊して、母親に起こされ、遅刻ギリギリで学校に行くことになった。そしてその様子を奇兎は上機嫌で眺めていた。)
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