秘祭、姫依祭。いけにえになるのは、果たして……

父を追ってたどり着いた田舎の寒村では、”まれびと„と「憑坐さま」にまつわる秘密のお祭り、「姫依祭《ひよりさい》」があった。
その秘祭に参加した主人公凛汰の目の前で、人が死に……?

とまぁ、ストーリーの方は各自追ってもらうとして、僕は少し着眼点をずらそうと思います。

こちらの作者の一初ゆずこさん、とてもきめ細やかで厚みのある、味わい深い文章を書く方なのですが、この方がミステリーを、それも横溝正史もびっくりの「因習村系」というどろっどろの話を書くとこうなるのかという驚きがたくさんある話でした。

そしてこの重厚な筆致がありながらも、登場するキャラクターにはどこかライトな雰囲気と言いますか、ちょうどゼロ年代のラノベやPCゲームに出てきそうな軽妙な雰囲気もあったりして、このギャップもまたいい。またこういう「飲み込みやすい」キャラクターが深いことを言ったりして響くんですよ。好きなキャラクターを見つける楽しみもあると思います。多分これ、普段人を、キャラクターを、そしてその人の心情をしっかり書けるからこそのライト感なんですよね。「重いパンチも打てますよ」の人のジャブは鋭いというか、ズンッと刺さってきます。

2024/2/4時点の最新話まで読んでいますが、民俗学的知識も混ざっているのと、先述の重厚な文章×ミステリーという深みのおかげでとても考察が捗ります。他の人の応援コメントを読んでみるのも面白いかも(※ただしネタバレには気をつけて!)。

作中に出てくる民俗学的知識には、「日本文化固有の神仏入り混じった雰囲気」「独特の死生観」「禁忌とされていることを犯すゾクゾク感」などなど、「こういうの好きだぁー!」が溢れていて、これもまた読む手を止めさせません。

不思議なんですよ。さっきから言ってる通り重厚で深みのある文章で、しっかりと腰を据えて読みたいのに、先が気になってどんどん読んじゃう。僕はものすごい勢いで読みました。で、一通り読み終わった後、重めの文章を読んだ心地よい疲労感と、作品の牽引力から解放されて「ふわぁ〜」と声が出る。幸せな声ですね。寒い日にシチュー食べましたみたいな。でもそのくらい本当に満足感があるんです。

本作が他の因習村系統と異なる点のひとつに、死生観から派生する宗教観が混ぜられていることがあると思います。
神仏入り混じった、と書きましたが、日本神道と仏教、そして地方特有の民間信仰はもちろんのことながら、西洋の宗教画の知識なんかにも少し触れます。ちょっと珍しいですよね。でもごった煮感はなく、自然に溶け込んでいる……その手腕に脱帽です。すごい。

「見立て殺人」。
ミステリー好きなら一度は目にする耳にするワードですが、本作はこれを……おっと、ネタバレかな。
とにかく、「見立て殺人×ダヴィンチ」みたいな少し変わった古典ミステリー感も味わえるのも本作の旨み。こういうミステリー、100年前に出てたら覇権握って一ジャンルになってたよなぁ、なんて思いました。あれ? ということはこれから覇権を……? 

さ! 読むなら今のうち! 

ホラミスイチオシの作品です!

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