参捨壱 パストラス十勇士見参②
「メラニア・プレアルですわ。よしなに」
フリストスのお陰もあり、大いに静まった場で次に挨拶したのは見目麗しい少女だった。
巫女のドレスに身を包んだアンナも美しい女性だったが、メラニアと名乗った彼女もまた、負けず劣らずの美貌の持ち主だ。
動きにくそうなドレスを着込んでいた。
ローブとも呼ばれる
カーテシーの所作も実に堂に入るものでどこもおかしなところはないように見えた。
(でも、少しばかり声が低い気がするな)
(兄さんもそう思いましたか)
小声でまたもや会話をする小僧二人の不躾な視線を浴びても全く、動じることのないこのメラニアという少女。
実のところ、女性ではない。
本当の名はメノンであり、れっきとした男性である。
小柄で華奢な体格。
少女と見紛う中性的な美貌。
この長所を生かし、かつ厄介な性癖をも解消出来る女装をしているのに過ぎないのだ。
カラノスもこのことに関してはあまり触れたくはないのか、何も触れない。
続いて、フィトリヨ・マイオス、エクテレス・タムノスが紹介されたが特にこれといった印象を与えるものではなかった。
コーネリアスはここまで紹介された十勇士の顔触れを見て、確かに個性的ではあるがそこまで奇をてらった者ではないと思った。
彼の中で嫌な予感がしたのは杞憂に過ぎないと思いたかったのかもしれない。
しかし、彼の細やかな希望は次のサナトス・ナオスの紹介で吹き飛ぶ。
サナトスは西の言葉で『死』を意味する。
その名が表す通り、実に陰気な男だった。
一言も発しない。
大きな三角帽子を目深に被っており、目元まで隠しているので表情は窺い知れない。
不気味なのは露わになっている口がまるで道化師の描く、笑みの化粧のように弧を描いたままな点だった。
「何だか、凄いな」
「う、うん」
コーネリアスとヤンは不安気な表情を隠せなかったが、十三歳のカップルはなぜか、目を輝かせていた。
そこで止めのように現れたのが残り四人となった十勇士の面々である。
「おいすー。おらはキラーザだブヒ」
「トゥーリパでポコ」
「アポシキだチュウ」
「
場が静まるのではなく、凍り付いた一瞬である。
十勇士以外の面々は一同、ぽかんと口を開けたまま、呆然とするしかない。
伏兵に虚を突かれ、なすすべなく敗走した。
そのような気分に陥っていた。
キラーザは『大きな谷』と呼ばれる山岳地にあるオークの集落出身のオークの戦士だ。
少しばかり緑がかった浅黒い肌と大柄にして、屈強な肉体は亜人であるオークの特徴だった。
耳先が尖っている点は妖精の一族であるアールヴに似ているが鼻が低く、下顎から鋭く尖った犬歯が突き出ているのも大きな特徴と言えよう。
トゥーリパは
特徴的なのはその見た目で二足歩行をする雑食性の獣との例えがもっとも分かりやすい。
前世が日本人だったコーネリアスはまるで信楽焼の大きな置物がリアルに動き出したのかと錯覚したほどだ。
つまりは二足歩行しているタヌキにしか見えないのである。
彼らは精神に働きかける幻惑魔法の使い手としても知られていた。
アポシキは
ただし、タヌキではなく大きなネズミにそっくりである。
彼らは地下に蜘蛛の巣のような間道を張り巡らし、一族を代表する選出された長老により管理された帝国を築いている。
そのような噂が囁かれるほどに謎に包まれた亜人だった。
エンテメシスに至ってはもはや亜人ですらない。
彼?
彼女?
いや、彼らにそのような性別の差異は存在しないのかもしれない。
そう、エンテメシスはスライムである。
それも理性的で深き英知の塊と言うべき、森の賢者として崇められていたスライムなのだ。
しかし、その言葉を理解出来る者は誰もいない……。
悲しき賢者である。
以上の個性的過ぎる面々を迎え、パストラス再興軍の未来を左右する重要な怪談が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます