弐捨柒 ヤンの真骨頂②

 ではコーネリアスが言うヤンのとは何なのか。

 それを端的に理解するには、二人のやり取りを実際に見るのが一番だろう。


「ヤン。君には見えた?」

「迷ってるみたいだね。そう見えたよ」

「そうか」


 この会話はキリアコスを交え、あることについて語り合った後に行われたやり取りである。


 コーネリアスは必ずしも歴史通りに進まないのだと理解していた。

 つまり、未来は確定されたものではなく、下手を打てば、歴史と同じ方向に進む可能性もあるのではないかと疑ってもいた。


 もし、そうなった場合、カラノスとキリアコスが再び、パストラス再興軍として決起する。

 エンディアの援助を受けた再興軍はある城を落とし、本拠とすることに成功する。

 意気を上げる再興軍だが、それは滅びの序曲に過ぎない。

 援軍として、期待していたエンディアの軍勢が別の城に釘付けにされている間に敵の大軍勢に包囲された再興軍は、結局なすすべなく降伏を余儀なくされてしまう。

 カラノスが自害し、キリアコスも衆寡敵せずに捉えられ、謀殺されてしまうのだ。


 こうなる未来をコーネリアスは何としても阻止したかった。

 カラノスとキリアコス。

 彼らだけではなく、パストラスの亡命者は実に気のいい男達だった。

 掛け替えのない友となった男達を死なせたくない。

 コーネリアスはそう考えるようになった。


 エンディアの援助を受けるべく動くつもりだと聞かされたコーネリアスは、翻意するよう説得したが中々、思うようにいかない。

 そこでヤンに協力してもらうことに決めた。

 彼の力を使えば、容易に交渉を有利に運べるからだ。


「どうにか、出来そうかな?」

「任せてよ。ボクを誰だと思っているんだい? ボクの解錠オープン・ユア・アイズに不可能はないさー」


 腰に手をやり、胸を張るヤンの様子が心強くもあり、また不安にもなるコーネリアスだった。


 解錠オープン・ユア・アイズはヤンに授けられた贈り物ギフトである。

 ヤンがエリアルという前世の記憶を取り戻した際、自分に『錠前師』の能力があり、解錠オープン・ユア・アイズと名付けられた不思議な力があることを知った。

 初めの内はその使い方が分からなかったヤンだが、ある時、偶然とった手眼鏡のポーズで気が付いたのだ。

 手眼鏡で覗いた人間の記憶や感情が、彼には手に取るように分かる。


 まるで本を読むように頁をめくることで心の中を覗くことが可能だった。

 しかし、覗くだけではない。

 解錠オープン・ユア・アイズの名は伊達ではなかった。

 ある程度の心象操作まで可能としているのだ。


 いくらコーネリアスとはいえ、全てを有利な条件でまとめるのは至難の業である。

 それを可能にするのが、ヤンの解錠オープン・ユア・アイズだった。

 相手の考えを透かすように見ることが出来るヤンの助言があれば、コーネリアスはどのような交渉でもまとめあげる自信があった。


 ましてやキリアコスの心に迷いが生じていると分かったのだ。

 キリアコスを説得するのにこれ以上ないカードだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る