参捨柒 コーネリアス、思索する②

 ノウスを召し抱えようと二人組を寄こしたとある国の貴族にコーネリアスは思い当たる人物を一人思い浮かべた。

 ディオン・プリュムラモーその人でまず間違いないと確信していた。

 ディオンが羽柴秀吉であると仮定すれば、腑に落ちることが多かったからだ。


 ディオンが秀吉ならば、彼を殿と呼ぶ二人組の正体にも察しがついた。

 子飼いが少ない秀吉にとって、そのような人物は二人しかいなかった。

 加藤清正と福島正則である。

 年齢が自分とは変わらず、符合する点が多かった。

 恐らくは小柄で冷静な少年が清正で大柄の柄の悪い少年が正則に違いないとコーネリアスは推測した。


 そして、コーネリアスは改めて考える。

 秀吉は渡辺新之丞を二万石で召し抱える考えがあったと確かに本に書かれていた。

 しかし、そう考えていただけである。

 実際にそうした訳ではないのだ。

 石田三成が渡辺新之丞を己の知行全てで召し抱えたと聞き、不思議に思って彼に問い質しているに過ぎない。

 知行全てを失った三成が「渡辺新之丞の居候になる」と答え、秀吉は大笑いしたとも書かれている。

 だが、笑っている顔の下で彼が実際に何を考えていたのか。

 想像するに難くない。


 秀吉という男には実に不可解なところが多い。

 コーネリアスはそう思い始めていた。

 人誑ひとたらしと呼ばれ、お人好しのイメージが先行しているだけで決して、そうではない。


 両兵衛と呼ばれ、後世に秀吉の軍師として名高い竹中半兵衛と黒田官兵衛がいる。

 虚実入り混じった半ば伝説が多い二人だ。

 この二人に対する秀吉の態度もコーネリアスにはまた、不可解なものにしか思えなかった。


 今孔明と呼ばれる見事な手並みを見せた竹中半兵衛を秀吉は重く用い、師のように接した。

 しかし、それは後世に語られる根拠のない逸話に近い。

 彼の実像は実のところ、よく分かっていない。

 後世の虚構による脚色が多いのだ。

 重く用いられたとはとても思えないまま、播磨三木城の包囲戦のさなか、病により陣没している。


 黒田官兵衛も後世の脚色で彩れた部分が否めない人物であり、名軍師とされるのも半兵衛と同じく、彼らが没した後の世に書かれた書物によるところが多い。

 官兵衛はそのあまりの才能の高さに警戒され、秀吉にあまりよく思われず、冷遇されたとするのは後世の脚色である。

 実際には官兵衛の独断専行が影響したとコーネリアスは考えていた。

 唯々諾々と命に従う性質ではないのが災いしたと言えるだろう。


 しかし、どうにも解せないことがあるとコーネリアスは思った。

 有岡城で荒木村重が反旗を翻した際、友である村重を説得しようと有岡城に入った官兵衛がそのまま一年余り監禁される重大な事件が起きている。

 この時、信長は官兵衛も裏切ったものと判断し、人質として預かっていた官兵衛の嫡男・松寿丸(黒田長政)を処刑しようとする。

 ところが秀吉は何か、対応したという逸話は伝わっていない。

 動いたのは竹中半兵衛その人である。

 松寿丸を殺したと偽の首を信長に見せただけではなく、松寿丸を密かに匿って守った。

 この恩義に感動した官兵衛は竹中家の家紋を用いるようになったほどだ。


 考えれば考えるほどに恐ろしい。

 コーネリアスは秀吉の人誑ひとたらしの仮面の下に隠された冷徹さに気付いてしまった。

 行列で垣間見えたディオンは秀吉よりも恐ろしい。

 底の見えない沼の如き、底知れない男のように思えてならなかったのである。

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嫌われ者のハシビロコウキャラに転生した俺、どうすればいい? 黒幸 @noirneige

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