弐捨肆 奇妙な同居人①その名はヤン

「ただいま」

「おかえり、


 コーネリアスが戻ったのは屋敷というにはあまりに貧相だが、庵というには少しばかり大きな一軒家だった。

 荒屋あばらや同然だった元商家の邸宅を買い叩いて、手に入れたコーネリアスの小さな城だ。


 ヴェステンエッケの南東に位置する平民階級が多く暮らす居住区で長らく、放置され荒屋あばらやとなっていた邸宅をとある人物と共同購入して、同居していた。

 その人物――ヤン・シャンス・グロセンタールがコーネリアスを『』と呼んだのである。


「何か、変わったことは?」

「別に。つまんないよね。何か、面白いこと起きないかな」

「物騒なことを言うもんじゃないよ」

「兄さんは変に真面目過ぎて、いけないね」


 けらけらと笑うヤンにコーネリアスが冷めた視線を送る。

 このやり取りも日常のいつも変わらない光景だった。

 家主があまりにも若いこと以外、特に変わったことはない。


 コーネリアスは十六歳。

 ヤンは十一歳。

 十五歳で一応は成人と認められる年齢ではあったがそれでもいささか、変わった組み合わせの二人組である。


 コーネリアスがヤンと同じ屋根の下で暮らすに至った経緯は、偶然というには奇妙過ぎる運命の悪戯と言うべき出会いがあった。

 ヘルヴァイスハイト家に仕える次兄カイルを頼り、ヴェステンエッケに出てきたコーネリアスは二年の間、カイルの家で厄介になっていた。

 しかし、そうも言ってられない状況になったのはカイルが嫁を迎えたからだ。


 これまで学問一筋、仕事一筋で浮いた話一つない。

 このまま独身を貫くのかと思われたカイルが急に嫁を迎えた。

 時に神は悪戯をすると言われてもおかしくない不思議な縁で結ばれた夫婦だった。

 そうなると新婚になった兄の家に居づらくなった居候のコーネリアスである。


 どうしたものかと思案して歩いていたので失念して、ぶつかったのがヤンだった。

 ヤンもまた、どうしたものかと思案して、歩いていた。

 あまりにも奇遇なぶつかり方をするものだと意気投合した二人は年が近いこともあり、互いの悩み事をぶつけることにした。


 コーネリアスには先立つ物がなく、計画など全くなかったがどうにか出来る才覚を持っていた。

 ヤンには先立つ物があったが、まだ子供ゆえに出来ることが限られてしまう。

 とある夫人に侍女として仕えていた過去を持つ母を病で亡くし、田舎から出てきたばかりの十歳の子供である。


 互いに無い物を出し合えば、いいパートナーになると二人が閃くのにさして、時を要さなかった。

 当座の資金はヤンが出資し、交渉事はコーネリアスが表に立つ。

 こうして、世にも奇妙なコンビが急遽誕生した。


 だが、この出会いと結びつき。

 決して、偶然のものではなかったのである。

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