捨肆 バドの秘密②
「もう、こっちを向いてもいいわ」
隠す気もないのか、普通に女の子の言葉遣いをしているバドにコーネリアスは激しく、惑う。
三十路まで生きた経験が何の役にも立たず、さすがに戸惑いを隠せないでいた。
これまで仲の良い友達と思っていた男の子が、本当は女の子だった。
さらに肌の色を偽っていたことも大きい。
シルバーブロンド、バイオレットカラーの瞳、白い肌が三位一体となり、バドがまるで妖精のように見えたからだ。
「ああ。そうか。塗ってたのか」
「そういうこと」
そこにはいつもの泥を塗ったかの如く、日焼けにしては黒過ぎる肌の色をしたバドが立っていた。
彼女の手には軟膏を入れる金属製の小さな容器が握られている。
「これは
「へえ」
コーネリアスは日本の戦国時代に似た不思議な異世界へ転生したのだと自覚していた。
しかし、いまいち異世界にいる実感は得ていなかった。
その理由は人々の見た目が西欧の人種に似ていることもあり、外国で暮らしているといった程度の認識しかなかったのだ。
異世界であるはずなのにそれらしき、魔物を見かけたこともなければ、不思議なことが起こる魔法をその目で見たこともない。
これは彼の生まれ育ったストンパディ村が田舎の小さな村であったことも影響している。
まず、治安が良く、人に害をなす魔物や野盗の類が幅を利かせていることがない。
魔法も持って生まれた素質がかなり重要視されており、高度な魔法を使える高い魔力を持つ人間はどうしても王族や貴族といった限られた階層に多かった。
そうとはいえ、実はコーネリアスは知らず知らずのうちに魔法の恩恵を受けていることに気付いていない。
台所で鍋を温めるのも浴室の湯を温めるのも、炎の魔石を利用した魔道具が使われている。
魔法を気軽に使えない平民階級でも気軽に快適な生活を送れるようにと開発されたものだった。
「魔法ってことは君は……」
「あっ。違うよ。あたしは貴族じゃないの」
「そうなんだ」
「うん。そうなの。あたしはね。
それから、バドが語り始めた内容は大概の事柄に冷静な対処で応じるコーネリアスですら、驚きを隠せないものだった。
アールヴの名はコーネリアスも知っていた。
父トマスの蔵書を読み漁った時、その名を目にしていたからだ。
半神と呼ばれることがあるアールヴは神々の眷属と考えられている。
美しい容姿。
不思議な力。
地方によってはアールヴを神と崇めるところさえ、あったと記されているほどだ。
アールヴの記述でコーネリアスが思い出したのは、前世で見た記憶があるファンタジー作品に出てくるエルフだった。
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