捨壱 奇天烈な旅人①
得体の知れない大男とこれまた素性の知れない子供を連れて帰ったコーネリアスはさぞや、大目玉を喰らった。
……などということはなかった。
コーネリアスは幼少期から、突拍子の無い行動に出る。
彼の突拍子の無い行動に幾度も救われたことさえあり、既に家族は慣れっこになっていたのだ。
慣れとは
母のゾーイは「また、拾ってきたの」と捨て犬や捨て猫を拾ってきたくらいにしか、受け取っていない。
元々、ゾーイは鷹揚な人柄だった。
未だに美貌を失ってはおらず、二十二歳の息子を筆頭に五人の子がいると言われてもにわかに信じられない容貌の持ち主ではあったがその中身は夫のトマスよりも男らしいところがあった。
コーネリアスに対する信頼の高さもあったと言えるだろう。
かくして風変わりな者二人がストンパディ家の客人として、迎え入れられた。
薄汚れた装束を纏った異彩を放つ
そこかしこに見るからに新しくついたとしか思えない赤い染みが付いている。
血糊ではなく、本物の血だ。
返り血を浴びたのだと誰の目にも明らかなものだった。
浅黒い色をした肌も異質である。
北方ではあまり見かけない肌の色だった。
荒涼とした砂漠を連想させるサンドカラーより、深く暗い色合いだった。
しかし、シニストラはどちらかと言えば、奥目で鼻筋が通った彫の深い顔立ちをしている。
コーネリアスは記憶にあるインド・アーリア系の民族に似ていると思った。
一方の若草色の上着を身に着けた奇妙な子は、ストンパディ家の屋敷までの道すがら、自らを『バド』と名乗った。
バドは銀糸を思わせる見事なシルバーブロンドと紫水晶そのものが嵌め込まれたと思わせる美しい瞳が、見た者の心に強く刻まれる特徴的な容貌を持っている。
彼の肌の色もまた、少々、北の民とは毛色が違う。
シニストラの肌より暗色に近く、明度と彩度も低いので砂というよりは泥の色に近い肌の色をしていた。
ただ、不思議なことにバドもまた、彫の深い顔立ちだった。
コーネリアスは記憶にあったネグロイド系の人種に近い肌をしているのに奇妙なこともあるものだと考えたが、これも異世界だから、さもありなんと無理矢理、理解することにした。
ストンパディ家の面々は、このような奇妙な出で立ちの男と子供を特に警戒感を抱かずに受け入れた。
そこにはコーネリアスがシニストラを命の恩人であると紹介したのも大きく、影響したと想像するに難くない。
ストンパディ家には受けた恩は倍にして返すべしとする家訓らしきものが伝わっていたからだ。
コーネリアスが睨んだ通り、シニストラは果たして右の足を負傷していた。
九歳児にして恐るべき慧眼と言うべき、観察力だった。
それほどの深手ではなく、暫くの間、養生するだけで回復する程度の傷である。
シニストラの怪我を診たのは村の老医師だ。
初めは警戒し、診察を拒んだシニストラだったが「この村の者は口と義理が堅いのだけが取り柄でしてな」と一向に引かないトマスの態度とその実直な人柄に折れた。
コーネリアスもこのやり取りを目撃していた。
ふと思い出したのは石田三成が追われる立場になろうとも守ろうとした石田村の話だった。
「拙者はこの坊主を連れ、先を急ぐ旅の途中でござる」
シニストラは雲を
整った容貌をしているが、それ以上に厳ついの単語が先に浮かぶ印象が強い。
何よりも見た目通りである。
口が非常に重かった。
口数が少ないだけではなく、圧倒的に言葉が足りない。
ストンパディ家の者だけではなく、村人も何か、思うところがあるのだろうと察し、言及することはなかったが『先を急ぐ旅』とやらに訳アリなのは誰の目にも明らかだった。
「バドはずっと旅をしてるのかい?」
「……そうでもない」
コーネリアスは違和感を覚えた。
バドの年齢が十歳だと分かり、貴重な同年代として大いに話が弾むものだと考えていたからだ。
しかし、バドは年齢の割に不自然なほどに落ち着いていた。
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