捨捌 古き都ヴェステンエッケ②
「僕の考えが間違っていたのか?」
コーネリアスが己の考えが誤っているかもしれないと軌道修正を思案したのは十三歳の時だ。
その年、織田・徳川連合軍と浅井・浅倉連合軍が姉川の地で激突した『姉川の戦い』が
羽柴秀吉が飛躍するきっかけとなる長浜の地を与えられたのもこの頃である。
浅井家が滅び、重要な拠点となる長浜を与えられた秀吉に石田三成の父と兄が仕えたのも丁度、この頃だった。
そもそも朝倉家を討つべく、軍を起こした織田家が縁戚との縁よりも先祖の義理を重んじた浅井家により、退路を断たれ苦境に陥った『金ヶ崎崩れ』と呼ばれる壮絶な撤退戦がきっかけである。
この撤退戦で名を上げた羽柴秀吉は以後、その名声を高めていくことになる。
ところがである。
コーネリアスの生きている世界でそれらの合戦は一切、起きていないのだ。
それどころか、ストンパディ村の属するネーエブフト王国は平和そのものだった。
事ここに至って、コーネリアスは運命を変えるべく、自分から動くことに決めた。
長兄ジャクソンの運命を変えた。
シニストラとバドとの出会いもあった。
だが、この世界の歴史は必ずしも自分が知っている通りに動いてはいない。
そうであるのなら、黙って時を過ごすべきではないと彼は悟った。
「そうか。遊学か。ヴェステンエッケか?」
「はい。カイル兄さんがいますし」
「
「ありがとう、父さん」
一般的な視点で捉えれば、ストンパディ家の子女は優秀な部類に入る。
長兄ジャクソンは武門の家ではないにも関わらず、十分過ぎる才覚があることを証明した。
惜しむらくは持病により、騎士を目指す道が閉ざされたことだろう。
次兄カイルは父親譲りの学者肌なところがあった。
その博覧強記ぶりは凄まじく、選ばれた者しか入学を許されない学舎を出ている。
長女のジュリアと次女のメーベルは美貌で知られた母ゾーイの血を色濃く継ぎ、整った容貌だった。
それでいて、高い教養と豊富な知識を有しており、嫁ぎ先の家からの評価は頗る高い。
コーネリアスはそんな兄姉を持ち、末っ子としてある程度は自由に生きることを許されていた。
それでも息子を応援する姿勢を隠そうともしない愛情深い父親の姿を見るとコーネリアスの心は温かいもので満たされていく。
むしろ遊学に異を唱えたのは母のゾーイだった。
しまいには自分も遊学先についていくと言い出したゾーイを何とか宥め、コーネリアスの遊学が決まった。
遊学先は古都ヴェステンエッケ。
千年の時を刻んできた都である。
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