弐捨玖 運命の会談へ
(天王山の合戦はもう少し、後に起こる戦いのはず……それに秀吉と光秀が決戦した場所での話じゃなかったか)
コーネリアスが目の前で起きている光景に現実逃避するように行き着いた考えがそれだった。
そうでもしないと信じ難い光景が起きた。
コーネリアスはキリアコスを強いてはカラノスが率いるパストラス再興軍を翻意させるべく、すぐに動いた。
ヴェステンエッケが誇る双璧として、リヒテルとフランツの名は広く知れ渡っている。
彼らが後押しするともなれば、慎重なオットー王であっても重い腰を上げざるを得ない状況となった。
否。
状況を作り上げたのはコーネリアスであると言って、過言ではない。
十六歳の少年の考えと思いが歴史を動かしたのだ。
古来より、西方の地はヴェステンエッケにとって、厄介事を生み出す禍の地だった。
諸王朝が乱立し、小国や部族のせめぎ合う血で血を洗う過酷な群雄割拠の時を刻み続け、平穏であった時代は数えるくらいにしか存在しない。
常に戦火の絶えない紛争地であるとともに時として、ヴェステンエッケにも
大軍をもって包囲されたことも一度や二度ではない。
堅牢無比な城塞都市として知られるヴェステンエッケの命運も風前の灯火と呼ばれる情勢に陥ったことすら、あったがどうにか、その危機を乗り越え、現在がある。
王家は多大な被害を受けた過去の歴史を決して、忘れていない。
ゆえに西方への橋頭保と成り得る存在が出来るのであれば、オットー王が看過することはないだろうと推測したコーネリアスの読みが当たったとも言える。
公の発表は後日に回されていたが、ヘルヴァイスハイト家とデュンフルス家のパストラス家への後援が正式に則ったものであると
そこでコーネリアスはパストラス再興軍にそのことを伝えるべく、立役者の一人であるトマーシュの屋敷に彼らを招いた。
トマーシュはリヒテルに仕える陪臣の立場にある人物だが、男爵に叙任された貴族であり、言わば家老に匹敵するヘルヴァイスハイト家の重鎮だ。
人となりも豪胆で勇敢でありながら、沈着冷静さも併せ持ち、時には憎まれ役を買うことすら辞さない。
そんな彼の人柄を表したかのような屋敷と庭園である。
質実剛健という言葉がこれほど、よく似合うものはないと言わしめるに十分な佇まいをしていた。
もう一人の立役者であるデニスは今回の会談への参席を許されていなかった。
デニスは果断で勇猛だが、思慮や分別が足りない男という訳ではない。
戦場において、冷静で柔軟な思考をめぐらせられる人間である。
ただ、彼には致命的な弱点があった。
情に流されやすく、感情で動くことが多々ある。
彼が隻眼隻腕の剣士になったのもそれに因るものだ。
つまり、今回の会談でヘルヴァイスハイトを代表し、交渉に臨むのはトマーシュである。
だが、ここでコーネリアスの頭を悩ませるのがデュンフルス家を代表し、参席するのがテオドールだったことだ。
それもあって、テオドールに加えて、リヒテルの三女であるガブリエラまで同席することになった。
齢十三にして次代を担う俊英と称されるテオドールは、下馬評に違わぬ優秀な才を有するがデニス以上に難がある気性の持ち主だ。
そこに許嫁であるガブリエラまで加われば、どうなるのかコーネリアスですら、予想が出来ない。
仲介人としてコーネリアスとヤン。
ヴェステンエッケ側を代表する者として、トマーシュとテオドール、ガブリエラ。
面々を前にコーネリアスの心を過ぎるのは一抹の不安である。
そして、それ以上に彼を驚かせたのがパストラス再興軍を代表する面々が勢揃いしたことだった。
会談に参席すべく、トマーシュの屋敷を訪れたのは総勢十一名の勇士である。
パストラス再興軍の代名詞と言うべき
十勇士の面々の面構えを見たコーネリアスの抱いた感想が『天王山』だったのである。
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