参 転生者の憂鬱
コーネリアスの前世である光汰は前世や来世があると信じるほど、信心深くなかった。
それどころか、神や仏に懐疑的ですらあったほどだ。
唯一の家族だった父・光也は信心深く、常に他者を慮る人生を送っていた。
それにも関わらず、光也は病に斃れ、やつれ果てた末に世を去った。
以来、光汰は神や仏を信じていない。
ブラック企業に長らく身を置いたことで精神的に追い詰められていたことも大きく、影響していた。
それゆえ、前世を思い出す世にも珍しい貴重な体験を経験しようともにわかに信じなかった。
だがたった五年。
されど五年である。
コーネリアスという少年は恐ろしいほどにリアリストだった。
光汰とコーネリアス。
二人分の記憶と経験が混ざり合った。
(そうか。これがうわさのいせかいてんせいか)
一人合点をしたコーネリアスは思い出したことをまとめようと灰色の脳細胞をさらに活性化させる。
光汰は歴史が好きで同じ趣味を持つ光也とよく歴史談議に花を咲かせていたことを思い出した。
光也は素人ながら、とある戦国武将の本を自費出版するほどに戦国時代の造詣が深かったことを……。
(そうだ。あれはだれだったか。い……い……いしだ! いしだみつなりだ!!)
光也が自費出版した本のタイトルは『七本槍の功罪』である。
よく知られている賤ケ岳の七本槍は江戸時代に入ってから脚色されたものであると考察し、その真実に迫ろうと独自に取材を進めた光也のライフワークともなった大作だ。
完成し、出版に至ったのが光也が病を発症する一年ほど前だった。
過酷な職場環境で肉体的な疲労が溜まっていただけではなく、父の死で精神的にも追い詰められた光汰にはとても細部にまで目を通す余裕はなかった。
それでも父の遺作と言っても過言ではない大事な作品である。
流し読みに過ぎないさらっと読むことしか出来ない親不孝な身の上を嘆きつつ、内容が衝撃的なものだったこともあり光汰の脳裏に深く、刻まれていた。
(かんがえろ。かんがえるんだ。いまのぼくのじょうきょうを……)
考えれば、考えるほどに石田三成と自分が酷似しているとコーネリアスは感じた。
転生した異世界は群雄が割拠する戦乱の世である。
覇を唱えんとする綺羅星の如き英雄がいる中、抜きんでた存在がエンディア王国のノエル王だった。
このノエルこそ、まさに覇王と呼ぶべき英雄の中の英雄である。
ノエルにはイザベルという名の妹がおり、嫁ぎ先はネーエブフト王国のナタン王。
コーネリアスはノエルが織田信長その人であると考えた。
イザベルはお市の方と見て、間違いないとも睨んでいる。
(ねええぶふとはたぶん、おうみのくにのことだ)
コーネリアスが生まれたストンパディ村はネーエブフトの北の端にある。
学問の才能がある父親。
その六人の子の末っ子として、近江の国で生まれた。
石田三成と全く、同じ状況だった。
偶然にしては出来過ぎている話である。
(でもまてよ。みつなりはたしか、さんなんではなくじなんみたいにいわれていたような……)
大いなる違和感だった。
六人兄弟には頼りになる長男ジャクソンがいるのだ。
それにも関わらず、長男はいなかったことにされている。
(そうか。おもいだしたぞ。にいさんはことしでじゅうはちだよなあ? まずいな)
そして、父・光也の著書にあった一節を思い出した。
石田三成の長兄・弥治郎が十七か、十八で早世している事実を……。
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