第17話 魅惑の白薔薇館

後でジョージ義兄様が言った。


まさか王子様が娼館に潜んでいたとはねと。


「見つからなかったはずだよ。確かにどんな美男子でも目立たないけどね。そして刺客も探さないと思う。王子様が潜むには、あんまりだ」


とは言え、客を取る気なんか、全然なかった風でしたけど。

ずっーと(本人の認識は知らないけど)やっぱり堂々としてましたわ。

娼夫としては、どうかと思いますわぁ?


「恰好の隠れ家で、どう言う訳か、そこで警視総監の義妹と知り合いになったと。そして恋仲になったと。嘘のようによくできた話だよね」


「どうして刺客が探しているのですか?」


私は不思議だった。


「隣国の新しい王太子がぼんくらだからだよ。第三王子のリオネール殿下を担ぎ上げたい勢力が、後を絶たないのだ」


「前の王太子がいるではありませんか。兄上の。そっちに戻ったらいいんじゃないですか?」


「長男がぼんくらすぎて次男に交代したのだ。真実の愛だのなんだのってのは、ただの口実だな。だが、さらにダメ王子だったのさ」


「あの……私、ものすごい危険物と結婚するのでは?」


王家のお家騒動なんて、とても付き合えない。

まずくすると内戦になってくる。


今更な話だが、私は自分の行く末が心配になって来た。


「大丈夫。チャールストン卿の紹介で僕も警務庁に勤務することになったから。脳筋じゃ務まらないよね。警務庁って」


リオネール殿下が就職先を探しに行った筈なのに、いつの間にかジョージ義兄様の転職先が決まっていた。


ジョージ義兄様は思わぬ出世だとか言って喜んでるけど、シャーロットお姉様はなんておっしゃるかしら……






そして、私の身の振り方について、またもやシャーロット姉様の家で親族会議が持たれた。


新しい恋人の存在がバレないうちに、素早く離婚する必要が生じたためだ。


なんだか私って、すごいやり手みたいだわ。




「あきらめて社交界に再デビューしましょう」


レジータ姉様が決定した。


「自分の口で、自分から話しましょう。あなたのことをみんなが信じるわ」


「あのう、誠に言い出しにくいのですが……私、お金が無くて」


社交界で活躍するためにはドレスがいる。馬車も必要だ。でも、私にはお金が無い。


両親が出してくれるはずがない。それに会いたくない。スノードン侯爵と離婚訴訟の手続きは進んでいるが、両親はスノードン侯爵側につくかもしれない。そうなると厄介だ。


ジョージ義兄様が言った。


「離婚に関しては、証拠はそろっている。白薔薇館が味方に付いている」


「えっ? 白薔薇館が? どうして?」


白薔薇館……名前からして、何とも禍々しいような、そんな男の敵なオトコの園が、私の味方?


「一つには、君の味方に付かないと、今後の経営が成り立たないからだ」


「はいい?」


意味が分からない。


「君は騙されて入館したにせよ、客だ。客を守ると言う姿勢を貫くつもりなのだ」


「客……」


「次は、リオネール王子だ。なぜか白薔薇館で働いていた」


いや、本当に『なぜか』だわ。理由がわからない。ふつうは知り合いの貴族の家とかに行かない?


「イケメン過ぎて、どこでも大問題になるからだと本人は言っていた」


「いや……」


イケメンに間違いはない。だけど、そこまでイケメンかしら?


「目立たないようにすれば、それなりに目立たないのでは?」


「あと、小銭が欲しかったと……」


「は?」


「カードゲームで自由自在に勝ったり負けたり、そこそこ小銭を稼いでいたようだ」


チャールストン卿が、極めて残念そうに言った。


「チェスの腕前も相当だ。実はわしは負けた……」


チェスの腕では相当なはずのチャールストン卿を負かすとは。しかも、世話になっているくせに平気で勝つだなんて。


「さすがは王子。すごい勝手」


私は感心した。


自由自在に生きている。


「あれは才覚があり過ぎるのだ。奥方になったら、ちょっとは自制するように言いなさい」


「……はい(?)」


まだ、嫁でも何でもない。


私、そんなリオンの嫁なんて務まるのかしら?


「それはとにかく、裁判で、あのイケメンがいたと公表されれば、別なイケメンもいるかもしれないと、余計な想像力が働くだろうと……」


幻のイケメン広告ですか。


「しかも王子様だ。イケメン真性王子から、嘘でも愛を囁かれるロマンチック劇場だ。しかも、娼館なので秘密の恋だ」


チャールストン卿、いつもの寡黙はどこへ?


「未来の婿がわいせつ物みたいになってイヤなんですけど」


「そこは、王族の名誉のためにチェスとカード占いに専念していたと証言してもらうことになっている」


「カード賭けの方は……」


「それは賭博法で引っかかるから、王子殿下がやってた訳にはいかないので」


色々と問題の多い王子だった。絶対売らない占い王子@娼館ってどうなの? そんなのでも人気が出るの?


「大丈夫。小銭を稼ぐのは趣味なだけだから。領地から上がる収入が相当ある。生活に支障はない。今回のトマシンのデビューに関して、費用は全額王子殿下が持つそうだ。真実の愛を感じるね」


太っ腹……? 真実の愛ってお金で測れるの?

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