第5話 猿飛の術破れたり
「良し行くぞ」と宣言して佐助はとみの周りをグルグル
回り出した。で時々攻撃を仕掛けてくる。
とみは問題なくその攻撃をはじき、佐助の腕にダメージを
与えていく。佐助は走る速度を上げる。
「佐助兄ちゃんが3人になった。分身の術だ」
みよが言う。
並みの相手なら幻惑されているだろう術もとみには無効果だった。
とみの【動体視力】を欺くには回る速度がまだ遅い。
「いつまで遊んでるの!」
叫んでとみが佐助の周囲を回りだす。速い!
「あの子がいっぱい居る!」みよの目には
とみが5人になったり
6人になったりして目が回っている。
「行くよ」
宣言してとみが攻撃に移る。時々佐助の顔が歪む。
腹を打たれて身を屈める。尻を蹴られてぴーんと棒立ちになる。
「やばい」佐助が逃げた。
「佐助兄ちゃんどこ行った?」「あの木の中ほどの枝だ」
甚兵衛が解説した。「だが見ろ!おとみちゃんはそのずっと上の
枝に居るぞ」
「い、いつの間に」
佐助が逃げる。
だがとみはいつまでも佐助の上を取っている。
猿飛の術は木々を利用して陰から飛び出したり木の上から
飛び降りたり、時には空中で回転して見せたりして敵を
幻惑翻弄させてスキを突く戦法である。が、佐助の動きの先々に
居るとみには通用しない。そう、まるで心を読まれているようだ。
とみの能力【思考読み】の賜物である
「決めちゃうね」とみは佐助の首筋を手刀で打つ。
気を失った佐助を小脇に抱えてみんなの所へ帰って来た。
「甚兵衛さん只今」
「お帰り怪我は無いかい」
「大丈夫だよ。この子気を失ってるだけだから」
「「「いやいやいや、そりゃ逆だから。あんたの方を心配して
言ったんだから!!!」」」盛大に突っ込まれる。
はあ?何で?という顔のとみも可愛かった。
気を失った佐助の、とみの攻撃による傷を、とみは【治癒回復】の
能力で治していた。
「う~ん」
「佐助兄ちゃん気が付いた。どこか痛くない?」
みよが気遣う。
「あれ俺どうなった?」
とみに先手先手に上を取られて絶望的になったことまでは憶えていた。
「佐助兄ちゃん、おとみちゃんに小脇に抱えられてきたんだよ」
「そうか。完敗だったんだな。参りました」
佐助は潔くとみに頭を下げる。
「小脇に抱えられて」の言葉を反芻すると、パーと顔が熱くなった。
(俺、こんな綺麗な
なんかとても良い匂いがしたような……それっておとみさんの……)
佐助の顔が再び紅潮した。
この時佐助は18歳。とみに、この子呼ばわりされたがとみより年上だった。
この時の試合の経験と、術の欠点をとみに指摘されて修行に修行を
重ねて,後の世に【猿飛佐助】と広く名を知られるようないっぱしの
忍者になった逸話である。
しかし忍びとしては名を知られるのは不味かったのでは……。
いや大丈夫。名前が独り歩きして世の中には背の高い美青年と、
思われているからだ。
真の姿は背の低い童顔の好青年である事は知られていない。
「おい、今度は俺と勝負してくれ」
佐助と、とみの試合の噂を聞いた、才蔵という男が試合を
申込んで来た。後に【霧隠れ才蔵】となる男である。
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