第6話 霧隠れの術?
才蔵と試合する事になった。試合場は才蔵の指定した川原。
時間は朝7時。そこには噂を聞きつけた野次馬が集まっていた。
甚兵衛も、佐助も、おみよもいた。
才蔵は中肉中背の色男だった。女の子の声援が多い。
「才蔵兄ちゃん頑張ってーおとみなんか倒しちゃって!!」
相変わらずおみよはアンチおとみだった。
「なんだ、顔はいいが洗濯板かよ」
ピキーン、おとみの心臓に才蔵の鋭いとげが刺さった。
ギロッと才蔵を睨む。
慌てて才蔵が言い直す。
「ま、まあ、女は胸だけが全てじやないしな」
「そうだよ。おとみさんはお尻も素敵だ」
どさくさに紛れて佐助が心の声をさらけ出してしまう。
「うんうん」甚兵衛が頷く。
「みよ、おとみちゃんの凛とした立姿。背中からお尻にかけての
あの曲線の美しさ、後ろに突き出したぷっくらしたお尻の膨らみ
実に眼福眼福……」
ここには変態野郎しかいないのか?不本意ながらおみよと
おとみの感想が一致した。
「試合はじめ!」甚兵衛が宣言する。その時川の上流から
風が強く吹き降ろして来た。
まるで雲の海のような霧が川下に流されていく。
見事な風景だ。
おとみが見とれていると後ろから殺気が襲った。才蔵の攻撃だ。
ひょいとよける。才蔵がたたらを踏む。
突き出した小刀を握った右手をおとみが掴む。
そのまま前方へ投げ飛ばす。才蔵は石川原の上を前方回転して
立ち上がった。
「なんで俺の攻撃が分かった?」
「そりゃあ、あれだけ殺気出して襲って来たら判るでしょうが」
「初めて避けられたぞ。お前大した奴だな」
「なに?時間と場所を指定したのってこの霧の流れを見せて
油断させるためだったの?」
「ああ、今迄の対戦相手はボケーと見とれて簡単に倒せた」
「そりゃ残念だったね。でも、いつこの現象が起きるか予測
出来るのは凄いよ」
「そ、そうか」特技を褒められて満更でもない才蔵だった。
「ねえ、この現象って名前付いてるの?」
「そんなもんねえよ」
「この川の名前は?」
「矢萩川だ」
じゃあ【矢萩川あらし】だね」
「【矢萩川あらし】か良いな。そう呼ぶことにしよう」
「おいおい、吞気にお喋りしてていいのか?試合はどうした?」
外野から声が掛かる。
「そうだった。私から行くよ」
「さあ来い」
おとみは才蔵の力量を見極めて少し強めの攻撃を続ける。
丁々発止の攻守が行われる。
見た目にはどっちも引けを取らない戦いに見えるが、
明らかに才蔵の息が上がってきている事を甚兵衛は見破る。
「はあ~お腹すいた~」
おとみの情けない声が響く。
「終わらせるよ」
「ああ望む所だ」
おとみは速度を上げて斬りかかる。
「チェストー」
おとみの変った掛け声で才蔵の小刀が弾かれた。
「勝負あったそこまで!」
甚兵衛が終了を告げる。
「はあ~楽しかった。お腹すいた~」
「負けた負けた!あんた凄いよ。試合をせがんだお詫びに
飯おごるよ」
「いいの、私大食らいだよ」
「女の子一人くらいの飯代くらいなんてことないさ」
才蔵は知らなかった、おとみの底なしの食欲を……南無。
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