第7話 霧隠れの術完成する

村に1軒だけの食堂に来ていた。

沢山のお品書きが貼ってある。

(良かった。書いてある字が読める。けど、

どんな料理か解らない)

「さあ、すきな物をどんどん食べてくれ」

「ありがとう、でも、ごめん。お薦めの料理を頼んでくれない」

「あそうか、甚兵衛さんがおとみちゃんはこの世界の人

じゃないと言ってたなあ。良し分かった任せときな

じゃあまずこれを食べれるか試してみよう」

才蔵は店員を呼んであれこれと注文した。


程なく料理が来た。おにぎり5個に味噌汁

沢庵が付いている。

「米と言う穀物を炊いたご飯を握ったものだ。中に色んな

具材が入っている。食べれると良いのだが……」

「頂きます」先ず味噌汁に口を付けた。

「美味しい。お豆腐にワカメの味噌汁。懐かしい」

おとみの中の登美枝が、感激して泣いている。

おにぎりにかぶりつく。

「おかかだ!焼き鮭だ!梅干しだ!う、ここれは明太子

そして海老天!美味しい美味しい美味しいよ~」

バクバクズルズルポリポリ

瞬く間に平らげた。おとみは知らず知らずに泣いていた。

初めて食べた料理なのに懐かしくて堪らなかった。

食べ終えたばかりなのにもう次の料理が出てきた。

「天ぷらうどんだ」

「うん,美味しそう頂きます」

海老天、サツマイモ、えっタラの芽、晩秋のこの時期に?

あなごの天ぷらも!」

ツルツルしこしこズズズズパクパク。

再びおにぎりセット、天ぷらうどんの繰り返し。

ふー、食べた食べた。

(うん、腹八分目ってとこかな。少しは遠慮しないとね

だって女の子だもん)

「御馳走様でした。美味しゅうございました」

どこぞの食レポおばさんの様にいう。

「もういいのか?」

「う。うん」

「じやあ、親父おやっさんあれ頼むよ」

「あいよ、おにぎり100個2人前だ」

店長さんが大きな風呂敷包みを2個持ってきた。

甚兵衛さんから言い使ってた。お土産に200個用意

してもらえってな」


「きゃあ甚兵衛さん男前!今夜も按摩してあげよう」

おとみは甚兵衛に餌付けされた。


「ところでさ、おとみちゃんは霧の発生する条件って

知ってるの?」

「煎茶を飲みながら才蔵が訊く。

「詳しくは知らないけど川面や地面の温度が急激に下がると

発生するとか……」

登美枝の記憶がそう言わせた。

テレビは知っていてもテレビの映る原理を知っている者は

そうそう居ない。霧の発生する原理なんてうろ覚えなのだ。


「そっか……俺にはそんなことは出来ないからなあ」

「霧をつかいたいんだ……ちょっと待ってね」

おとみは才蔵を鑑定する。

見えた。【温度変更レベル1】が有る。

「出来るかも知れないよ。これから川原に行こうよ」

「え、おお」


川原に来た。

勿論おにぎりの風呂敷包みはしっかり収納している。


「ねえ、あのへんの川面を冷やす気持ちで祈ってみて」

「う、うん」

才蔵は気を集中する為に両手で印を結ぶ。

(霧よ出ろ。霧よ出ろ)

川面の直径2メートルの範囲に明らかな変化が有った。

霧が発生したように見えた。

「やったよ。霧が出たよ」

「そうかな」嬉しそうだ。

「今度は土の上で自分の周りを冷やしてみて」

「おお」


今度は、はっきりと才蔵が霧に包まれた。

「出来たよ霧隠れの術!」

「おお、有難う、おとみちゃん有難う」

「後は繰り返し練習して、色々試した方が良いね。あ~お腹すいた~おにぎり食べよう」

「おいおい、もうかよ。食堂に戻るぞ。まだ食べてない料理もあるぞ」

「ほんと?やったー!楽しみだなー」

子供のように喜ぶおとみ。

そんなおとみを、おみよなら「ちょろい」と言うかもしれない。








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