第2話 瞳、おとみになる
「ところでまだ嬢ちゃんの名前を訊いておらんかったなあ
儂は、甚兵衛 、
この刀が折れてしまって、獲物に逆に狩られるところだった
がのう」 、甚兵衛は、自嘲気味に言った。
足元に無残に折れた刀が落ちていた。
「私は瞳16歳です。元居た世界では魔物を討伐したり、
薬草を採取したりする仕事をしていました。
「え、いとみ、みとみ?」
「ひとみです。ひ、と、み」
なんか聞き取れない発音じゃなあ……とみちゃんでどうかな?」
「とみですか……はい私は今日からとみです」
さっきまでいた場所は結構遠い高い山の上だったようで、
甚兵衛の家には2山越えてようやくたどり着くことが出来た。
それでも、ふもとまではまだ下らなければならないみたいで、
細い道が下に向かって伸びていた。
甚兵衛の家は古い杉の木の皮ぶき屋根で、大き目の石が乗って
いる。風で屋根が飛ばされないようにだろう。
広い庭が有って、畑がつくられている。
(大根、じゃがいも、胡瓜、
こっちにはかぼちゃね)
瞳改めとみは知っている野菜が作られているのを見て安心した。
庭の隅に巨木が有り、太いえだを横に伸ばしている。
「血抜き用の木?」
「おお、判るか。さすがじゃのう」
「綱を持ってくるからあの一番太い枝の下に獲物を出して
おいてくれ」
「はい」
甚兵衛はすぐそばにある小屋から丈夫な綱を持ってきた。
跨ぐ様に枝目掛けて投げた。
「これ位大物だと人を呼んでこないと持ち上げらられない
かのう」
「こっちの綱を引っ張ればいいのよね。任せて」
「いやいや大の男が10人ぐらいでないと無理じゃろうて」
とみが引っ張ると羆はするするっと持ち上がる。
500㎏位ありそうな巨体がいとも簡単に持ち上がった。
「いやはや、出来ちゃったよ!」と甚兵衛さん。
木の幹に綱の端を括り付けて固定する。
羆の血の大半は首を切った地点で流れ切っていたようで、
さほど待たずに抜けきった。
「いやはや恐れ入ったのう。
村の男衆が10人もかからねばならない仕事を
とみちゃん1人でやってしまった。猟人としても生きられそう
じゃがそうすると儂の仕事が……」
「大丈夫ですよ。人の仕事を横取りなんかしないし、もし
やるとしたら何処か遠いところに行ってやるんで」
「いやいやほんの冗談じゃよ。解体を始めようか……
こいつを降ろさねばならないがどうするかのう」
「じゃあ私が持ち上げてるから綱を緩めてくれる?」
幹に結んだ綱がぎっちり固くなってしまって中々ほどけない。
焦る甚兵衛。
「甚兵衛さん。ちょっと待ってね、試してみたいことが有るの」
「おお」
とみが、羆だけを収納するイメージで収納魔法を掛けると
羆が消えて綱だけが残った。
「へへ出来ちゃった」
「って羆はどこ行った?」
「私の収納空間の中よ。で、どこへ運べば良いの?」
「ああ、こっちの小屋の中に来てくれ」
小屋の中は獣臭さが残っていた。普段から
ここで解体しているのだろう。
「これ位大きいと台の上は無理だから
地面に
甚兵衛は羆の向きや持ち上げ方を指図して、サクサク解体して
いく。
これが熊の胆(くまのい)だよ高く売れるから
傷つけないように取り出すんじゃよ」
とみは、食い入るように甚兵衛のやり方を見て学んでいた。
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