第3話 おとみさん前世を思い出す

 解体が終わると甚兵衛は庭にでて火を起こした。

 生木やら得体の知れない物体をくべると黄色い煙が

 天高く立ち上った。

「なにしてるの?」

「肉が獲れたと里の皆に合図の狼煙のろしを上げてるのさ」

「黄色い煙だね」

「ああ、狼の糞に秘密のある物を混ぜて燻すとこうなるのさ」

「ふーん」

「おとみも洒落が言えるんだね」

「え?、ああ、糞とふーんね。洒落言ったつもりはないんだけどね」

 とその時きゅるるーと、とみのおなかが鳴った。

「腹減ったか。熊鍋作るとするか」

「はい、御馳走していただけますか?」

「いやいや、もともとおとみちゃんが倒した獲物だから、

 儂らがご相伴に預かるほうなんだけどなあ。本当にいい子だなあ」

 甚兵衛さんはとみの事が気に入ったらしい。

 孫のように接してくれている。

 とみもとみで、砕けた話し方になっていた。


「いただきまーす」

【月の輪羆】の肉は臭みも無く、適度に歯ごたえのある

 美味い肉だった。

 ペロッと1ぱいめを食べてしまったとみは、物欲しそうに鍋を

 凝視している。

「まだ沢山有るからどんどん食べなさい」

「うん。遠慮なく頂きます」

 それからとみはどんどん食べ進める。1人で1㎏程の肉を食べきった。

「凄い食欲だなあ……」甚兵衛は呆れて言った。

 私大食いだからいつもお腹減ってる状況なのごめんなさいね

 洗い物は私がやるので、甚兵衛さんは休んでいてね」

「おお、じゃあその間に風呂沸かしておくか」

「お風呂あるの?嬉しい」

 修行中は、川とか沢で水浴びするか、濡れ手拭いで

拭くしか無かったのだ。


 食器洗い場は、裏山の湧水を竹の樋でかけ流ししていた。

 風呂場の方にも竹樋が伸びている。

「便利だなあ」

 風呂は檜の風呂桶に大きな窯で沸かしたお湯を

移し替えて入るようになっていた。

温度調整用の水は、それ用の桶に樋が繋がっていた。

 久し振りに髪も身体も石鹼代わりのサイカチの実で洗えたので

 見違えるほどの美少女に変身していた。

収納から洗濯済みの服を着て甚兵衛の前に現れると、

「あれまあ、とみちゃん凄い別嬪さんだったんだなあ!」

 甚兵衛さんも驚いて口をあんぐり開けている。


「あれ甚兵衛さん、腰痛めてない?私が揉んであげようか?

 とみは人の心を読める能力を持っている。

「そりゃあ有難い。ひぐまに襲われた時に

痛めたみたいなんだよ」


 とみは風呂に入っている時に自分が地球という星の

 日本人だったことを思い出した。

 日本では作業療法士の仕事をしていた。

 病気で不自由な体になった人の身体をマッサージしたり

 元の機能を取り戻すための、リハビリテーションを指導したり

 その手伝いをしていたのだった。

 名前は宮野登美枝(みやのとみえ)といった。

もっとキラキラネームだったら良かったのになあと、

思った時もある。だがこっちの世界でとみと呼ばれた時に

前世の自分を思い出すきっかけになった。そういう運命なのかもしれない。

 大食いも前世からである。時にはテレビの大食い選手権で

 優勝したこともあった。給料や大会の賞金もほとんど

 食費に消えて行った。

 趣味で格闘技や武道を嗜んでいたので、こちの世界での成長が

 早いのだろうと思う。

 大食いで取り入れた栄養は体を動かすエネルギーになって

 胸まで回ってこないんだと思いたいとみである。前世では25歳で

 Dカップは有ったのだから。


 布団にうつ伏せになって貰って腰をマッサージしていく。

「ああ、そこそこ、気持ちいい!」

「ここね、こっちはどう?

「うう、いい、いい、凄くいい!」

 とみは、新しい能力を得ていた。

 エンシェントドラゴンを討伐した時に獲得したようで

【癒し、治癒】の能力だった。

 甚兵衛はその最初の被験者になった。

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