第13話  口入屋にて

尾阪の町は大きい町だ。様々な商店と、食い物屋が

軒を連ねている。おとみにとっては、天国であり

一歩間違えると地獄になりそうだ。

食い倒れにならないように祈ろう。



尾阪には3軒の口入屋があるということだった。

気を付けなければならないのが、表もあれば裏もある

ということだ。

裏世界の口入屋に引っ掛かってしまうと、盗人の

仲間にされたり、人殺しの仕事を請け負ってしまう。

特に腕に覚えのある浪人が、引っ掛かってしまう。

あの、佐々木武蔵のようにヤクザの用心棒として

人斬り稼業に落ちぶれてしまうのだ。


 二手に分かれてどこの口入屋が安全で評判がよいか探る。

女性だけで聞き込みしてると、騙されそうだと佐助が言うので

佐助とおとみ。才蔵とおかよに分かれた。


おかよ才蔵組は

「おお、夫婦で働くのかい」と聞かれて、おかよが上機嫌

だった。

一方、「綺麗なお姉ちゃんと一緒に働くのかいと弟扱いされた

佐助は不機嫌だった。

 そんなこんなが有って情報を纏めると、三国屋と云う口入屋

が信用出来そうだ。



 「で、おとみさんは按摩屋さんを生業にしたいということ

だね」いかにもベテランらしい番頭さんが面接している。

「一軒有ったんだが、今は辞めてしまったんで、自分で開業

するしかなさそうだねえ」

「そうですか、考えてみます」

おとみは自営を目標に定めた。


「おかよさんは、住み込みの仕事を探していると……

家事全般は出来るんだね」

「はい、一応読み書き計算は出来ます」

「そりゃ凄い。あんたの器量なら引く手あまただろうが、

今直ぐ入れるお店は無いねえ」

「そうなんですか……」

「今直ぐでなくても良かったら、私の按摩屋のお手伝いしない?

「えっおとみちゃんが雇ってくれるの?そうしてもらえたら

嬉しいけれど」

才蔵さんと縁が切れないで済むかも、と思うおかよだった。

「その前に、お前さんの腕前をみせてもらってもいいかい?」

「良いですよ」



丁度肩凝りと、腰の痛みに苦しんでいた番頭は、試してみて

さっぱり効き目がなかったら諦めさせようと思うのだった。

結構良心的な男だ。


店番を2番番頭に任せて奥の部屋に向かう。

おかよも、男組も一緒だ。

変なことはしないという番頭の意思表示だった。



「おおおお、いいいい。良い気持ちだ。ああ」

我慢できない気持ちよさに思わず声が出てしまう。

実際に肩凝りも、腰の痛みも解消されていた。

(このの腕前は本物だ。繫盛間違い無しだろう。

腕が良すぎて、患者が居なくなる方が心配だが

人口50万人を誇る尾阪の町だ。それは杞憂ってもんだろう)

(痛みが無くなっても、この気持ち良さを求めて客が殺到する

だろう。これは今のうちに恩を売っておいた方が得策だな)



 「おとみさん。あんた素晴らしい腕前だねえ。私もいやいや、

三国屋として、全力であんたを応援するよ。

お店にする家は大きい部屋数の多いところが良いでしょうな。

これだけの器量良しが二人もいたら、狼藉者も来るだろうから

あんたら男衆も住込みの用心棒になった方が良い。

そうだ。風呂付の家を探そう。客用の便所も必要だねえ」


 予想以上の番頭の食いつきに少々引き気味の

おとみたちだったが、店となる家を探すのは

三国屋に任せることにして

連絡先の宿を伝えてその日は引き上げた。


 才蔵と佐助は一旦村に帰るか迷っていたが村の家には

無いと困る物も置いてないし、甚兵衛さんや世話になって

いる人達に手紙を書いて送ろうとなった。怖いのはおみよの

嫉妬だが、まさか尾阪の町まで追いかけてこないだろうと

フラグを立ててしまうおとみだった。

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