6-36.成果の相互利用(2)
リーベント・プリエモール男爵はしばらくく黙り込んでいたが、やがてその目が妖しく光り輝きはじめた。もう彼の頭の中には、自分達のこれからの実験計画が具体的に思い描かれているのであろう。
サンドラ・スープラン長官は男爵達が既に試作に成功している 『水蒸気を大量に貯める為の密封構造の金属製のタンク』に大いに興味を惹かれていた。
彼女は化学の専門家であって空気や石油を分析する為の知識は十分に持っていたが、必要なガスをどうしたら金属製の容器に漏れないように閉じ込めることが出来るのかなどについての知識はあまり無く、むしろ手詰まりの状態であった。
フラウ王女は、両庁を競わせようとは全く思っていなかった。得られた成果はいずれの庁から出された物であるに限らず王国科学技術省として等しく受け入れるつもりであった。
このフラウ王女の考え方は、近い将来この両庁が一本化される可能性をも示唆していた。
飛行船は最終的に船を浮かせるための化学的分野と浮いた船を飛ばすための科学部門の考える推進機関の二つが揃って初めて実現可能なものとなる。
その為には、今後は定期的に両庁の情報交換会が必要と考えられた。そのことで両庁の情報の共有化並びに両庁の協力体制が作り上げられれば、これらの研究が飛躍的に進むことも期待できた。
「サンドラ長官には物が燃える時に必要な空気の成分や、石油の主な成分に関し、科学庁へ情報提供のための説明をお願いしたい」
・・・・・・・!
「プリエモール男爵殿には金属密封容器の製造方法と石油成分を圧縮密封可能な容器のサンプル並びにその詳細な情報の提供をお願いしたい 」
王国科学技術省の化学庁と科学庁が共同体制をとることとなり、王国の飛行船開発に大きな弾みがつき始めた。
しかし科学技術省大臣としてのフラウ王女の真の狙いは飛行船ではなく、王国内外で一度に大量の食料や衣料品更に建築用物資など市民の生活に密接な関わりを持つ物資を人や動物に頼ることなく、かつ短時間で運搬することが可能となる推進機関を作り上げることにあった。
トライトロン王国第一王女フラウリーデは、この時点で自分の頭の中に白い煙を吐きながら、或いは機械音を発しながら行き交う動力性の荷車が王国内外を問わず、行き来している光景を思い浮かべていた。
そして一方で、もうこの流れは止まらないとも感じていた。自分の考える産業発展への障害になる物が立ちはだかってきたら、それがハザン国であろうと、王国内部の貴族連合軍であろうと、全て排除することを決意していた。
後世の歴史家はトライトロン王国に端を発したこの一連の研究開発とそれによって得られた成果の数々を、『産業革命』と名付け、その成功に導いた第一人者として後のトライトロン王国の女王フラウリーデの稀に見る人望と先見性そしてその推進力を挙げている。
(第6話終わり)
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