1−4 蔵書館での一日
翌朝早くからフラウは城の蔵書館に向かった。
城の蔵書館がこんなに大きかったのかとフラウ王女は改めて感じていた。実際は何度も入ったことがあるのだが、初めてそう感じていた。
実際,フラウ王女はそれらの蔵書には全く興味を示さず、剣術指南役のクロード・トリトロンはなす術も無く、この蔵書館で鬼ごっこに付き合わされたりしていたものだった。
梯子を使用しないと手に取ることができない様な高さに迄、本が置かれている。ちゃんと分類もなされている様だ。紙が未だまだ極端に貴重な時代、勿論印刷技術も無い。古い書物は、動物の皮や、竹を裂いて平たくして繋げたものに書かれているものさえある。 兎に角、フラウにとっては、初めて見る蔵書ばかりの様な気がした。
実は、この城に保管されている蔵書で、国の一つや二つ三ついやこの世界が丸ごと買える程貴重な物だということを、後に邪馬台国の卑弥呼女王から教えられるが、この時点ではフラウは未だ知らなかった。
まず、初日はどの棚にどの様な種類の本が纏めて保管されているか等の
法則がないかを見て回った。それだけで、その日の午後の時間を全て費やしてしまい、これ程迄に綺麗に分類されているのに、目録に当たるもが何も無いことを不思議に感じていた。
もし、フラウが蔵書好きな少女であったなら、もっと早くそのことに気づき、城の誰かに作らせたかも知れない。
つまり、蔵書は莫大な費用をかけて集められたものであるにも関わらず、実際には利用する者が殆ど居なかったのが実情である。
勿論文字が読める人材がさほど多く無いこの時代。ここの蔵書は正に宝の持ち腐れであり、その責任と義務を自分達王族が放棄してしまっていたことにフラウ王女自身は未だ気づいていない。
しかし乍ら、これまでこの蔵書館の秘密に疑問を覚える者が誰も居なかった為に、この世界の歴史が本来あるべきままの速度で流れていたことをその後に知ることになる。
フラウ王女が今その秘密のドアをこじ開けようとしていることで、この世界のこれからの歴史が大きく変わろうとしているなど思い至るはずもなかった。
フラウ王女は、此の王国に何故此れ程迄の蔵書が集められているのかについても何ら疑問を感じ無いまま、とにかく蔵書の多さにブツブツ文句を言い乍ら、漠然と何かを探していた。
そう。自分の住むトライトロン王国から遠く離れた見知らぬ場所に、あの洞窟と繋がっている邪馬台国が存在し、この蔵書の中にその秘密を解き明かすヒントがあるのではないかと漠然と感じていた。
フラウのその推論は、実は真実の一端を突いていた。少しだけではあるが、、、
その蔵書館の中に1箇所だけフラウの気になる蔵書コーナがあった。
明日はあの ” 東の日出る国 ” の蔵書を片っ端から読む決心をして、フラウは蔵書館を出た。
もう既に太陽は西に傾きかけていた。見知らぬ世界の文字で書かれている ” 東の日出る国 ” を自分が何故そのタイトルだけでも読むことが出来たかについては、気が付いていなかった。
「王女様、もうずっと探しておりました 」
「何か、急ぎの用事か?クロ!」
「そうではありませんが、また行方不明になられたのかと、探しておりました 」
「母には、蔵書館に行くと言っておいたが、、、」
「女王様は、鍛錬場でまた剣でも振ってるんじゃ無いかと、、、」
クロードは直ちに鍛錬場に行ってみたが、今日は未だ一度も顔を見せていないと聞き、まさかと思い乍らも蔵書館にやって来たのだった。
クロードの選択肢の中では、フラウ王女とこの蔵書館とは最も縁遠い存在だと認識されていた。
「私を、筋肉だけの人間みたいに言うのはよせ。明日から暫く、この蔵書館に籠るから、火急の時は、ここに来るのじゃ!」
「王女様が無事戻られて私はとても喜んでおりますが、私を ” クロ ” と呼ばれることとか 、” ……のじゃ ” という語尾はとても気になります 」
「気にするでない!最近覚えた話し方だが気に入ったので使っているのじゃ。本当に気にするでないぞ 」
「うーん、やっぱり不自然です 」
クロは、とても怪訝な顔をするが、フラウ王女は何とか誤魔化せたと胸を撫で下ろした。
「ああ!ところで、クロ?」
「だから、クロじゃなくてクロードですってば!」
「クロの方が呼び易くて気に入ったんだ。そうやっぱりクロが良い 」
「クロ!本当に私の着替姿を見なかったのか?」
「見てませんって、絶対見てません。姫様の美乳なんて恐れ多くて絶対に見てませんて 」
とクロは慌てたように顔を赤くしながら下を向いた。
「こいつ、絶対に見てるな、間違いない 」
フラウ王女はそう確信し、
「いずれ近い内に絶対に責任をとってもらうからな!」
と心の中で呟いた。
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