1−3 母の思い

 母のエリザベート女王はフラウリーデ王女の目覚めで安心したのか、その夜の食事を一緒に出来ないかと侍女シノラインを通じて聞いてきた。


 女王の名前を聞いた途端、フラウは母の顔を思い出していた。そして母の不安そうな顔が浮かび、自分が母をとても心配させてしまったであろうと考えると、フラウは母との対面に自責の念も相俟って少し緊張を覚えた。


 仮りに色々聞かれたとしても、フラウ自身が自分のあの時の状況を十分理解出来ていないので、説明のしようがない。推測ばかりの話だと返って余計心配させるかもしれないと不安になる。

 それにしても、遅かれ早かれ直面しなければならないことだから、ここはもう腹を括るしかないと決意した。


「姫様、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私達いつも噂してるんです。羨ましい位に仲の良い母娘だと。女王様は王女様が無事に帰って来られたので喜びさえすれ、決して怒ったりはななさいません 」

 シノラインがフラウを安心させる様に囁き、入室を促した。


 一番混乱しているのはフラウ自身である。しかし当分はこういうことが続くのを覚悟するしかないと諦めるしかなかった。


 ” 女王様の入室です ”

とのメイドの声に、大きく開かれた扉に目をやった。女王は小走りになりながら、フラウの側まで来ると、立って迎える娘を締く抱きしめ、

「フラウ! あまり心配させないで!」

と涙声で訴えた。


「御免なさいお母様、ご心配をおかけいたしました。私も自分の身に一体何が起ったのか、未だ十分に理解出来ておりません。その内徐々に思い出しますので、その時にゆっくりお話し申し上げます 」


 女王はフラウ王女を抱きしめながら、これ以上の詳細は聞かないが、次回から城から出る時には、必ずクロードを連れて行くことを約束させた。

 

 母がそれ以上深く追及して来ないことにフラウは安堵のため息をついた。


「それじゃ、久しぶりに一緒に食事しましょう 」


 食事の途中女王は何かを思い出した様に、フラウが発見された城の近くの洞窟の話を始めた。

 それは歴代の女王の間で口伝(くでん)にて伝えられている見知らぬ国の話だった。

 どうやら、あの洞窟が何処かの見知らぬ国と繋がっていることを、、、。


「お母様!その様な話、私は初めて聞く様な気がしますが、何故王国歴代の女王にだけ、しかも口伝にてしか伝えられていないのでしょうか?」

 

 今回のフラウの失踪事件がなければ、フラウ王女がこの様な話を女王から聞くことは無かったであろう。

 女王は今回の娘の洞窟での失踪事件とその口伝が何か関係がある様な気がしてならなかった。


 エリザベート女王自身、そう考える根拠は何も持っていなかったが、城の側の古い洞窟と聞いた時に、急にその言い伝えを思い出した。しかし、幸か不幸か、女王の知る限りその洞窟を通って別の世界に行った王族や人間の話は聞いたことが無かった。


「処で、お母様! お城の蔵書館暫く使わせて貰っても構わないでしょうか?」


「勿論。貴女の物なのだから、自由に使いなさいよ。だけど、珍しいわね。貴方が蔵書を見るなんて 」


 フラウ王女は、座学と聞くと、いつの間にか逃げ出して、剣術の指南役のクロードと剣を振り回したり、馬で遠駆けしたものだった。

 そのため、王女は座学が嫌いだから逃げていたと思われており、今回のフラウ王女の申し入れを女王は不思議に感じていた。


 この時、エリザベートは女王としてではなく、娘に起きた不思議な変化を今回の失踪事件と結び付けて心配している普通の母親の目をしていた。

 フラウは落ち着かないまま、女王と

の食事が特に何事もなく終わったことに安堵し、席を立った。

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