1−2.行方不明(2)

 フラウリーデは侍女の名前聞くのを忘れてしまったと後悔したが、状況からして自分に何が起こったのかを先ずは解明することが優先する様な気がしてクロを下がらせた。


 自分の朧げな記憶の中では、自分は女王であり、巫女の呪術能力も併せ持って、邪馬台国という国を治めていた様な気もする。しかし、そのことが夢なのか、今目覚めていると思っているそれ事態がが夢なのか、夢と現実が混沌として良く分からない。

 自分の頬を強く抓(つね)り夢ではないと思うことにする。


 そう仮定すると、邪馬台国の女王に関する記憶は夢なのだが、それにしては妙に部分的にリアルに感じられる物があったりもする。

 いや、さっきクロは、変な服を着ていたと言っていたし、汚いので捨ててしまったとも、、、。それを確認できないことに少し焦る。


 これが俗に言う生まれ変わりなのだろうか?もし生まれ変わりだとすると赤ちゃんから人生が始まるのが常道のはずだから、今既にトライトロン王国の王女と呼ばれている現実とは辻褄が合わなくなる。


 どうも、何かがおかしい。しかし邪馬台国の記憶を併せ持ちながら、ここに居ること自体も辻褄が合っていないことに思い至り、これ以上思案しても進展はなさそうだと、早々に思考を放棄した。

 それよりも、今のこの状況にどう

上手く対応するべきかについて考えることを優先した。


 時間が経つにつれ、自分が女王卑弥呼と呼ばれていた記憶の方が少しづつ薄れてきだした。

 一方で王女フラウリーデ王女であった記憶が次第に現実味を帯び始めてきている。


 詳細を考えると、辻褄が合わない部分がところどころ存在するが、多分これ以上悩んでも答えを見出せないまま思考の迷路に迷い込む様な気がしたので、早々に考えることを放棄してしまった。

 幸か不幸か、フラウは小さいこには拘りの少ない性格だった。


 トイレに行きたくなり、侍女を呼うと思ったが、今度は名前を聞いていなかったことを思い出し、何とか記憶を辿ろうとするが焦るばかりで、迫り来る尿意に顔を赤くなったり青くなったりしながらブルブルと身体を震わせていた。

 やっとのことでテーブルの上の置いてあった呼びベルを見つけ、激しく振った。

 その音の激しさに、慌てた侍女が部屋に入ってくる。トイレに行きたいことを伝えると手を引いて連れて行ってくれた。辛うじて間に合ったことに

安堵し、あまり大き過ぎない胸を撫で下ろした。

 そして、あたかも何事もなかったように、未だ頭の働きがはっきりしないということを理由にして、侍女の名前を聞くことができた。


 侍女は、シノラインという名前らしい。確か、邪馬台国卑弥呼の侍女は、

” しの ” と呼ばれていたような記憶が残っている。そう言えば、髪の色や目の色は全く違うが、全体的な顔の印象は似ている様な気がした。


「シノライン、そなたのことを今日から ” しの ‘’ と呼ぶことにする 」

 シノは、そなた ?? しの ??と怪訝そうな顔をしながら呟き、

「分かりました 」

とだけ答えた。

 フラウ王女の態度や言動を訝しく思いながらも、それは恐らく王女が未だ十分に回復出来ていない為だろうと、シノラインも自分の疑問に終止符を打つことにした。


 一人になったフラウリーデは、トイレが無事間に合ったことで少し心に

余裕が出始めてきた。そして、もう一度ゆっくりと自分の身に起こったことについて最初から思い出し始めた。そう、事実関係と想像の域を出ない記憶とに分けてみた。

 明確な事実としては、

 1.自分は王城の近くにある洞窟内

  で気を失っている処を失踪してか

  ら1週間後に発見された。

 2.発見された時、王国の物ではな

  い見窄らしい服を着ていた。

 3.その服はもうクロードにより既

  に焼かれてしまった。

が挙げられる。


 想像の域を出ない記憶に関することとしては、

 1.王城近くの洞窟内に一人で入っ

  て、気を失ってしまった。その時

  何処までも何処までも落ちて行く

  感覚を覚えながら、着いた所が邪

  馬台国だった。そこで、卑弥呼女

  王に出逢った。

 2.邪馬台国の卑弥呼女王は黒髪、

  黒曜石色の眼、色白の細面の顔に

  赤い唇、とても美しい若い女性で

  あった様な記憶がある。

 3.洞窟内で発見される前には、長

  い間浮遊感を感じながら、登り続

  け、着いたと思った途端に気を失

  ってしまった。

が挙げられた。


 これだけのことについて、フラウの頭が整理をつけられた時点で、もうフラウの中で、これは夢の中のことではなく、自分の身に確かに起きた出来事であるとの確信を持つに至った。

 勿論、色々深く考えると未だ未だ矛盾する部分が無いわけではないが、矛盾する部分は自分の記憶の誤差部分だと考えることにした。しかしそこ迄思い至ると話は割と簡単である。


 自分自身が事実だと信じる以上、それを確認する方法は何処かにありそうな気がしてきた。


 その時、フラウの頭の中に浮かんできたのは、王城内の大きな蔵書館であった。あの蔵書館に今回の不思議な事件の謎を解く鍵が隠されている様な気がしてならなかった。

 

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