4−20.ニーナ・バンドロンの変身
この日のエリザベート女王はとても機嫌がよく、笑いながらニーナ・バンドロンに話しかけとても嬉しそうに見えた。
ニーナが時々食堂に来る様になってから、皆んなで食事するのがとても楽しくなった様に感じられる。将軍の家族には悪いのだが、将軍が大丈夫だと言ってくれるのでついつい甘えてしまっていた。
父のスチュワート摂政もフラウ王女がクロードと婚約し、娘との距離が少し離れた様な気がしている矢先のニーナの出現に大変喜んでいる様である。
ジェシカ王女は両親が非常に上機嫌であることを感じとり、今が好機と感じたのか、珍しく両親に願い事をした。
「ジェシカが私達にお願い事など、珍しいこともあるもんだな。結婚して城を出るという話意外だったら何でも聞くぞ、、、」
父の冗談とも本気ともつかない返答に、両親が非常に機嫌が良いと確信したジェシカ王女は、ニーナを今回の調査仕事が終了しても自分の秘書として城通いにしてくれないかと頼み込んだ。
「わしや女王は一向に構わない。というよりそれは願ってもないことだが、それでも正式に城通いということになると、、、」
断られるとはないだろうが、こういう話は父親のエーリッヒ将軍への筋をきちんと通す必要があった。
「フラウどうだ!その役目頼まれてはくれないか?」
フラウ王女にとって、ニーナ・バンドロンが自分の近くにいてくれることは大歓迎であったが、ニーナ本人がどう思っているかが少し気になった。
一方、ニーナは蔵書の保管場所に近い程好ましいと考えており、好きな蔵書に囲まれながら給金までもらえるのであればとむしろ喜んでいるようである。
「ニーナは、明日からでも泊まり込む勢いの様です 」
ジェシカ王女の言葉に食堂内が一瞬笑いに包まれた。
ニーナ・バンドロンは、自分のことで話が白熱していることにしばらくキョトンとしていた。
自分をさておいて話がどんどん進んでいく様をニコニコしながら聞いているニーナにエリザベート女王が、声をかけた。
「ニーナ!何も聞かずに、明日朝一番に1時間ぐらい時間を開けてくれないか?」
翌朝、ニーナが目を覚ますとジェシカ王女の侍女アンジェリーナが早速ニーナの手を引いて化粧室へと連れて行った。そこには数人の召使いが既に控えていて、伸びかかったニーナの髪の手入れを始めた。
ニーナの髪は藍色で、光の具合によって紫とも青色とも黒色ともつかない光沢見せる。この世界では珍しい髪色でとても艶があった。
最初にフラウ王女がニーナにあった時、
「ニーナの髪はとても珍しい!」
と言って撫でてきたものだった。
髪の色がニーナの白い肌を特に際立たせている。大きな瞳は鳶色の虹彩で、これも王国では珍しい色である。
こんなに綺麗で艶のある髪をされてるのに、と召使いの一人がニーナの髪を扱いながら呟いた。
「折角の綺麗な髪、切り揃える位にしておきましょうね 」
出来れば、フラウ王女様のように後ろで結んでくれるようにニーナは召使い達に頼んだが、残念ながら召使い達の耳には届かなかった様である。
実際、この髪では蔵書をめくったり書き物をするのに都合が悪いと思うニーナの希望は、完全に無視されながら、あれよあれよと言う間にニーナの髪は王女様さながらの仕上がりとなってしまった。
ニーナはハザン国にいる時も同じ位の年齢の女の子の友人が少なかったこともあって、身を着飾ることに殆ど興味を示さず、暇さえあれば、何とか見つけ出した蔵書を繰り返し繰り返し読んでいた。
母から化粧や新しい衣服を勧められても、隙を見ては逃げ出していた。
今も、逃げ出したい気持ちで一杯であるが、今回エリザベート女王の命令ということもあり珍しく大人しくしている。
そのため、ニーナにとって、初めての本格的な化粧である。
「本当に、化粧しがいのあるお嬢様だこと。これで、見違えるようになりましたよ。どうぞ鏡をご覧ください 」
ニーナは一瞬呆気に取られていた。鏡の中の自分が、自分の顔とは俄(にわか)には信じられないくらいの変わり様に二三度目を瞬かせた。しかし残念ながら、ニーナの修行はそこで終わりでは無かった。
今度は衣装室に手を引かれて入って行った。
今や着せ替え人形さながらに召使いの言うがままである。桜色を基調とした生地に所々に白色の花と黄色の蝶の刺繍をあしらったドレスにニーナの藍色の髪と鳶色の瞳が映えて、ニーナは自分自身でまるで別の人間を見ている様な気分になっていた。
ジェシカ王女の侍女アンジェリーナに連れられ、ニーナが食堂に入って行った。そこには既に女王と摂政、フラウとクロードそしてジェシカが座っていて、開かれた扉から入って来るニーナの方に一斉に眼が向けられた。
そして、全員が目を瞬(しばた)いてその変貌ぶりに驚いて声を失った。
しばしの間があってエリザベート女王が、
「本当に見違えたわ!地が良いとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。ニーナ!朝食が終わったらエーリッヒ将軍に会いに行きなさい。ニーナの今の姿をお父様に見てもらいなさい!」
と、半ば強制的に命令した。
「ニーナ!蔵書に没頭するのも良いけど、時々お洒落するのも気分転換になるんじゃない。そうじゃないと、私がいつも貴女をこき使っている様に見えるじゃない。私もこの方が好きだわ 」
ジェシカ王女もご機嫌である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます