1−6 不思議な蔵書館

 僅かに黴臭い蔵書館の匂い、フラウは嫌いではなかった。戦場の高揚感とは較ぶべきもないが、不思議と落ち着く。自分は何故今まで蔵書館に入ることを拒んでいたのだろうかと不思議な気持ちにもなった。


 彼の国の卑弥呼女王が自分の頭の中に少し影響を及ぼしている為の変化なのかもしれないと考えたりもしたが、全てが曖昧模糊(あいまいもこ)であり、考えたとしても答えが出てきそうもないので早々に考えることを諦めた。

 やっぱり、フラウはフラウであった。

 彼女は面倒臭くて、厄介なことをあれこれと考え悩むのが苦手な性格だ。フラウの名誉のために念を押しておくが決して怠け者ではない。


 今日も、期待した成果は得られなかったが、邪馬台国の言語にだいぶ慣れてきたせいか、次第に読む速度が増していき、やがて多くの本を流し読むことも出来る様になってきた。


 夕食の折、エリザベート女王が、

「最近、蔵書館にずっと籠っていると聞いていますが、何か大切な調べ物ですか?」

と聞いてきた。


 フラウは一瞬食事を喉に詰まらせそうになって、目を瞬かせた。

「いえ、今まで、実戦ばかりに気が取られ、座学を蔑(ないがし)ろにしてたので、少しでも遅れを取り戻そうと思って、、、」

「それはとても良いことですね!女王になるには、剣だけでは難しいと思いますよ。幅広い知識を身につけ、下々を引っ張っていかなければなりませんから。私の場合、スチュワートが面倒臭いこと全てをやってくれるから助かっていますけど!」


「そう云えばお母様も王女時代、とてもお転婆でいつも剣を振り回して、他国からの侵略の時、真っ先に敵軍に突っ込んで、神剣シングレートを果敢に振り回しておられたとか!」

 お父様から聞きました。


「えー、スチュワートがそんなことまで話したんですか?彼が帰ってきたら、問い質してやろう 」

 王女は取り済ました顔で、そう呟いた。


 フラウは、自分の失言を一瞬の内に悟ったが、鷹揚(おうよう)な父のことだから、上手にはぐらかしてくれるだろうことを期待した。


 フラウの父、スチュワート・ハナビー・フォン・ローザスはいわゆる王国の摂政である。国内の政治的政策や、国外との折衝などを一気に引き受け、女王のいわゆる右腕となっている。


 それでも、女王や、娘のフラウやジェシカにも時間を見つけては、何かと言ってはかかわって来るのだった。フラウはそんな父が大好きで、自分の夫も父親みたいなタイプの男性が好ましいと常日頃からそう思っていた。


 翌日も、フラウは朝から蔵書館籠りである。そう言う日が何日かが過ぎ、一週間目にやっと目的の蔵書を見つけることができた。

 その蔵書に書かれている彼の国は、広大な砂漠や山や海を幾つもいくつも越えた所に、小さな孤島があって、周りの大陸からの影響を殆ど受けず自分達だけの国造りが出来ている国家らしい。

 

 それ故、独特の風習やしきたりで生活が営まれ、唯一無二の文化圏が形成されていたとされている。

 彼の国にその国の主たる部分を治めている部族があり、その一大集団が邪馬台国と呼ばれ、その大部族の長が、卑弥呼と呼ばれている女王だと、、、その蔵書に記載されていた。


 フラウは、自分の記憶の僅かに残っているものと蔵書に記載されている

内容がかなり似通っていること驚いていた。

 やはり、夢の中の出来事ではなかったのだ。自分に残されている記憶の一部と母から聞いたこの国の女王だけに口伝(くでん)で伝えられているという謎の洞窟、そして今読んでいるこの蔵書。

 これらの全てが、フラウの想像が見当違いでは無かったことを確信させる内容であった。


 一番知りたかったことが、自分の想像した通りの形で確認出来た為、フラウはその成果に満足し、この時、フラウは邪馬台国のことを書いてあったその蔵書自体が実は気が遠くなる様な昔々に書かれた蔵書であることを失念していた。

 その蔵書の古さから考えると、少なくとも千年以上前に書かれた物であるはずである。

 

 もちろんフラウは今自分が生きているこの時代と全く異なる時間軸の流れが無数に存在し、その中ひとつがフラウが考えている邪馬台国であることを、この時点では全く知り得ていない。

 フラウがそのこと思い当たるのは、もう少し時間が経って、自らの意志で卑弥呼と出会い、卑弥呼から色々な知識を享受された後のことである。


 フラウは目的を達成したことに十分満足し、ニマニマとしながら扉を開けると、妹のジェシカ王女が鉄砲玉の様に飛び込んできて、フラウの身体を直撃した。


「お姉様!蔵書館ならどうして私を誘ってくれないのですか?何かお姉様のお役に立てることがあるかも知れないのに。もしかしてそんなに秘密にしなければならない調べ物ですか? 」


「ジェシー!そんなことは無いが、せめてジェシーと座学を語れる様になりたいと思っているのだが、、、」

 フラウ王女の苦し紛れの言い訳に妹のジェシカ王女は、もし姉と座学のことで語り合える様になれば、自分を子供扱いしない様になるのではないかと考えていた。

「そうなったら、ジェシカはとても嬉しいのですが 、、、」

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